スウェーデンは、ヨーロッパ諸国のなかでもいち早くサスティナブルビジョンを取り入れ、そのノウハウを世に送り出すことで競争優位を築いています。
去る6月、「革新的思考が生まれる国スウェーデン」を視察してきました。その滞在中に感じたことを綴ってみたいと思います。
街に日本車がない?!
ストックホルム・アーランダ空港に降り立ち、タクシーでストックホルム市街へ出発しました。その車窓からみる街並みに、何か違和感を覚えました。
私は海外生活も長く、数多くの国を訪問しています。異文化への理解、対応はそれなりにできているつもりです。
しかし、今回はいつもの感じと何かが違います。後部座席の窓から行き交う車を眺めていくうちに、日本車がほとんど走っていないことに気づきました。
いまや日本車は各国の生活のなかに根づき、その街の風景に溶け込みつつあります。「それなのになぜだろう、日本車が見当たらない。」
そんな疑問を片言の英語でタクシー運転手に投げかけてみました。すると、彼の返答はこうでした。「ああ、ほとんどの車がバイオ燃料(※)だからね。」と。
※バイオ燃料・・・トウモロコシやサトウキビと言った安い穀物を発酵・濾過してアルコール を作り出すバイオマスアルコール燃料。ガソリンに代替するものとして活用
「なるほど!ほとんどがヨーロッパ車だ。」
合点がいきました。実際は多くの日本車も走っていたのですが、私はバイオ燃料のヨーロッパ車が多いことに違和感をもったのでしょう。他の国では感じることの無い車社会にスウェーデンのサスティナブルビジョンを垣間見ました。
今回の旅は、衣食住においてサスティナブルな社会の実現に向けて、国をあげて推し進めているスウェーデンの、過去から現在に至るまでの取り組みやその実態を視察することが目的です。
「いったい、どんな実態なのだろう、日本と何が違うのだろう。」
想像すると、何だかワクワクしてきました。
グローバリゼーションとサスティナビリティと
今回はMAXハンバーガーの視察に関するレビューをしてみます。
MAXハンバーガーは、「食」に関してサスティナブル経営を実践している代表的な企業です。スウェーデンを中心に100店舗以上展開しており、他のファストフード店から抜きんでた高い収益を上げているハンバーガーチェーン店です。
その秘訣を探るために店舗に入ってみました。
まずパッと目を引いたことは、「活気あるその様子」でした。店内はお客さんで賑わっていて、従業員は笑顔を絶やすことなく働いていました。
また、従業員のなかに障がい者の方々も多くいました。彼らが「誇り」と「自信」を持って、いきいきとお客様にサービスを提供している姿が大変に印象的でした。
メニューを見ると、わたしにとっては見慣れない表示がありました。それは、それぞれの商品に示されたカーボンフットプリント(二酸化炭素排出量)の数値です。その商品を製造するのにどれぐらいの二酸化炭素が排出されているのかが瞬時に見てとれるのです。
ちなみに、ベーコンチーズバーガーの二酸化炭素排出量は1.8㎏、フィッシュバーガーは0.4㎏。「ベーコンチーズバーガーとフィッシュバーガーで二酸化炭素排出量はこんなに違うのか。だったら、環境への配慮を考えると・・・」と一瞬思案し、フィッシュバーガーを注文してしまいました。
「持続可能な社会」の実現 ~その戦略の方程式
MAXハンバーガーのHRマネジャーに、その経営の実践について聴いてみました。
MAXハンバーガーは、2006年からトップのビジョンにより、The Natural Step(国際NGO団体)と協働しサスティナビリティの取り組みを開始、その実現に向けて、持続可能性(サスティナビリティ)の4原則に基づく経営を実践しています。
【持続可能性(サスティナビリティ)の4原則】
- 自然のなかで地殻から掘り出した物質の濃度が増え続けない
- 自然のなかで人間社会が作り出した物質の濃度が増え続けない
- 自然が物理的な方法で劣化しない
- 人々が、自らの基本的ニーズを満たそうとする行動を妨げる状況を作りだしてはならない
MAXハンバーガーには、ビジョン実現に向けてのサスティナブル戦略の方程式があり、その切り口は「社会」「組織」「透明性」「生態系」の4つであるとのことでした。
「社会」の視点では、人口構成の変化が雇用に与えるインパクトは大きいと考えたとのことです。そこで、難民と障がい者の雇用を増やすことで、労働人口問題に対応しようとしています。欧州議会などで講演したり、記事に取り上げられたりした障がい者のラーシュさんなど多くの人材がいきいきと働いていて、まさに多様性の実践であるといえます。
「組織」の視点では、コアバリューの設定と浸透が目標です。MAXハンバーガーは、コアバリューのなかで世界一サスティナブルな会社になること、持続可能性4原則に基づいた事業活動を行うことを謳っています。その実践はラインマネジャーが鍵を握りますが、コアバリューの理解は誇りを持った仕事振りに大きな影響を与えます。
「透明性」の視点では、教育、ロビー活動、コミュニケーションを重視しており、ヒューマンエレメントプログラムを全社展開したことでお互いの信頼感が醸成されたという事です。そのヒューマンエレメントの考え方や手法がコアバリューの実践において活用されており、企業活動やマネジメントの中で重要な位置づけになっていることがわかりました。
「生態系」への配慮では、カーボンオフセット(※)などにも取り組んでいます。特に、二酸化炭素排出量の表示は、消費者に選択肢を与えることにつながり、また問題意識を啓発することにもつながったと、HRマネジャーは語ってくれました。まさに私自身がフィッシュバーガーを選んだ時の心境であり、知らず知らずのうちに戦略に巻き込まれている消費者を実体験したのです。
※カーボンオフセット・・・二酸化炭素の排出量を抑えるように生活し、温室効果ガスがどうしても発生してしまう場合は、これらの削減に努める活動に対し、投資を行う考え方とシステム
2003年デリフレッシュの導入、2005年障がい者の雇用スタート、2008年カーボン表示、2012年難民の採用と取り組んできたMAXハンバーガー。社会課題の解決を企業活動によって行おうとしている、まさにその実践例なのです。
サスティナブル経営の実現=企業価値向上
MAXハンバーガーは、このような取り組みを通じて、評判が評判を呼び34%のマーケットシェアを得ることになりました。取り組みが口コミで伝わり、様々なメディアで取り上げられることからも、ブランド価値が高まりました。様々な努力をしているからこそプレミアムクラスの価格設定ができ、業界の中で一番利益率の高い会社になっています。
スウェーデンの国民は、3R(Reuse, Reduce, Recycle)の意識が大変に高いことが、「衣」「食」「住」にみてとることができました。日本も徐々にではありますが、その傾向にあるように思います。
このスウェーデン滞在は、サスティナブルな経営を実現するための「戦略」を「行動」にうつすことで、消費者だけではなく地域社会へのブランド価値の向上や高収益な企業価値の向上につながっているのだと実感できた貴重な時間でした。
※BConでは、「現状の延長線で戦略を立てず、バックキャスティングで持続可能なビジョンと戦略の手法を身につける」ことを学ぶ講座、BSSP( ビーコン・サスティナブル・ストラテジー・プログラム)を設けています。
【スウェーデン視察記 シリーズ記事】
- MAXハンバーガー編
- エコシティ ハンマビー ショスタッド地区編
- 第二のエコシティ ロイヤルシーポート編
サスティナビリティ実現のための具体的な実践例に刺激を受けたという方に、サスティナビリティとイノベーションに関する資料をご紹介させて頂きます。ぜひダウンロードして頂き、ご自身の企業活動としては何ができるかをお考えください。サスティナビリティへの取り組みが企業にとっての生き残り戦略に他ならないことを分かりやすくまとめています。
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