先日、いつもお世話になっている組織開発がご専門の先生から、サステイナブルな企業経営に関連して、「ベネフィットコーポレーション」という新たな企業形態が米国にあることを教えて頂きました。
いったいどのような仕組みなのか、どんな企業があるのか気になり調べてみました。少し大げさな言い方ですが、これは企業のあり方が変わる、社会・経済を仕組みから良くしていこうという、おもしろい動きで、米国のみならず、世界のあちこちに広まりつつあることが分かりました。

今回は「ベネフィットコーポレーション」について、まずはどのようなものなのかご紹介します。

企業の新たなあり方 ベネフィットコーポレーションとは

ベネフィットコーポレーションとは、企業の新しい法人格のことです。米国と言えば、株主至上主義のイメージを持っていました。ところが、ベネフィットコーポレーションについて調べるうちに、その前提が覆えされました。米国では、新たな企業形態としてのベネフィットコーポレーションを認める法律(ベネフィットコーポレーション法)はすでに31州で成立しています。2010年にメリーランド州で初めて法律が制定されてから、現在では3,500を超える企業がこの新しい法人格を取得しているそうです。

このベネフィットコーポレーションの特徴は、

・株主最優先ではなく

・環境やコミュニティ、社員、さらには外部団体等の幅広いステークホルダーすべてのバランスを取った経営意思決定をし、

・企業活動を通じて「公共の利益」を実現する

ということで、従来からの株式会社とはかなり前提が異なります。

例えば、「この投資は短期的には利益を生まないのだけれど、中長期的には環境にもコミュニティにも良いし、持続可能な経営の実現につながる」といった経営意思決定をする場合を考えてみます。
従来からの株式会社であれば、「なんだこの四半期の決算は!」「利益にどうつながるのか見えないことに投資するなどあり得ない!」といった株主からの批判を恐れて、意思決定しづらくなってしまいます。
一方ベネフィットコーポレーションの場合、自分たちのミッションに合致する意思決定であるならば、短期的な利益の問題だけで株主から訴えられるといったことは生じません。ですから、環境に良い経営をしたい、持続可能性につながるような経営をしたい、という企業にとっては、ベネフィットコーポレーションになることは、自分たちのミッションを実現しやすい環境、法的な後ろ盾を得られるということになります
日本でも環境保護や企業の社会的責任への取り組みに熱心な企業として知られているアウトドア用品のパタゴニアは、カリフォルニア州で最初のベネフィットコーポレーションです。他にはクラウドファンディングのKickstarter、アイスクリームのBen&Jerrys、オーガニックボディケアのErbavivaなどがあげられます。

なぜ企業のあり方が問題になるのか

企業というのは営利を目的とした組織であり、政府・行政や非営利団体のような社会に対するサービスを提供する組織とは異なる動機・目的で運営されるもの―
もちろん、創業時から企業の社会的責任を大事に考え、歴史を刻んできた企業もたくさんありますが、これがこれまでの一般的な見方であぜり、20世紀から続く資本主義経済の大前提とも言えることです。

ところが今、そのような利益追求を最優先する企業活動を社会が容認してきたことで、環境の破壊が進んだり、森林や水産資源が枯渇したり、貧富の格差が広がって人権が脅かされる状況が無くならないなどの事態が生じているという問題意識を持つ人が増えてきました
経済学をはじめとする様々な分野の研究者、NGO、そして企業経営者までもが、資本主義経済システムのあり方そのものを見直すべきとの問題意識を発信しています。

とはいえ、そんな大きな経済システムのことを言われても、私たちは何からすれば良いのかなかなか想像ができません。でも、「私たちの多くにとって働く場所である「企業」の役割を問い直してみよう」と言われれば、少し問題が身近に感じられませんか?

ベネフィットコーポレーションとは、システム的な問題解決そのもの

ここまで述べてきたような現状に疑問を持ち、経済の仕組みや法律を見直して、広い視野を持ち、全体への影響をシステムとしてとらえて問題解決を推進しようとするNGOや起業家による活動が後押しとなり、ベネフィットコーポレーション法は全米の多くの州で制度化されるようになりました。

彼らの活動のベースにあるのは、「ビジネスを、社会やコミュニティにとって良いことをなすための“力”として使おう」という考え方です。

Bコーポレーションという独自の認証制度を提供し、かつベネフィットコーポレーションの法制度化を推進しているNGO団体、B Labの創設者はこんな風に説明しています。

「システムは社会のためにあるべきものなのに、現在はシステムがうまく機能していない。システムそのものを変えるべき時に来ている。」

20世紀のシステムとは、株主至上主義の資本主義。ここでのルールは、何をおいても株主の利益を最大化することで、システムはそのために最適化されてきた
その結果、深刻な環境破壊や経済格差、人権侵害といった問題が世界中で広まってしまった。

21世紀にふさわしいシステムとは、社会と株主の利益を同時に追求すること。
そのためには政府や非営利団体の力だけでは不十分であり、社会の複雑で困難な課題を解決するために、ビジネスの持つ力をますます活用すべきである。

しかし、そうしようとするとき、現在のシステムには3つの問題がある。

①株主の利益を最優先する会社法
②「良い経営」をしているかどうかを判断できる共通の指標が無い
③そういった企業に投資するための仕組みやマーケット情報が不十分

2010年、Jay Coen GilbertによるTEDでの講演より抜粋)

つまり、ベネフィットコーポレーションという新たな法制度を整えることで、ビジネスを通じて、利益の追求だけではないコミュニティや環境の問題解決をしていこうとしている企業が、社会的に認知されて活動しやすい環境を作ってしまおうという動きなのです。まさに、システム的な問題解決と言えます。

次回以降の記事では、ベネフィットコーポレーションになると企業にはどのようなメリットがあるのかや、海外だけではなく日本での取り組みなどについてもご紹介してまいります。どうぞお楽しみに。


参考情報

【ベネフィットコーポレーションの特徴】
・アメリカでは2010年に初めて法律が施行され、201612月時点で31州で州法に制定されています。
・税制上の優遇措置はありません。
・ベネフィット・レポートの提出や第三者機関による認証といった従来の企業にはない義務が課され、高い透明性を求められます(州により異なります)。
general public purpose「公共の目的」のための企業経営を求められ、定款に定めます。例えば、
低所得者や公共サービスを受けられていない個人やコミュニティに対する製品・サービスの提供人々に経済活動に携わる機会を提供する(単に就労機会を作るということだけではなく)環境保全・保護芸術や科学の振興公共の利益に資する団体への資本供給を強化する など
参照:http://benefitcorp.net/

【B Labについて】
スタンフォード大の学生らが創設したNGO団体。「using business as a force for good」を掲げ、独自の厳しい基準で「B CorpBコーポレーション)」という認証を行っている。フェアトレードのコーヒーに認証があるように、「良い経営」をしている企業に認証を与え、社会的な認知が高まるということで幅広い活動をしています。現在B Labの認証を受けているBコーポレーションは、アメリカ国内外に多数あり、HPによれば2003社、50か国、130産業にわたっています。
https://www.bcorporation.net/

※日本では現在3社が、Bコーポレーションの認証を取得しています


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サステイナビリティとイノベーション 〜次世代への責任〜




 

山田有佳
京都大学総合人間学部、同大学院人間・環境学研究科修士課程修了。専攻は文化人類学、クロアチアで戦災からの街の復興をテーマにフィールドワークを行う。 株式会社ビジネスコンサルタント入社後、企画営業、営業マネジャーを11年。育児休業から復帰後、WEBマーケッターとしてのキャリアをスタート。聞きなれないIT用語と格闘しつつ、サステイナブルな未来につながる選択をしようという人が増えるためのメッセージの発信を目指している。