東京都世田谷区、千歳烏山の駅前商店街を抜け、しばらく歩いてたどり着くサステナブル・シーフードレストラン「BLUE」。ここは、少し変わったレストランです。

メニューには調達方針が大きく書かれ

カウンターの目立つ場所に置かれた「認証取得者の証書」
CoC認証

海のエコラベルが記載されたメニュー
メニューに海のエコラベル

お店の随所に、ここで食べる魚に思いをはせ、
質問してみたくなるような写真や資料が
海産物の産地情報提供やオリジナルグッズ

そして出てきた、おいしくて、
ちょっと新しい食べ方をさせてくれるメニューの数々
白身魚 カツオ

BLUEは、2017年9月にオープンした、日本初のサステナブル・シーフードレストランです。おいしく食べることで、水産資源の問題に気づくことのできる場所です。すでに水産資源の問題に気づいて、どの魚を食べたらよいの?と思っている人にとっては、安心して魚をおいしく食べることのできる場所です。

こちらを経営するのが、水産物に恵まれた福井県敦賀市で生まれ育った松井大輔さん。松井さんは生粋の料理人というわけではなく、ある目的を持ってこのレストランをオープンしました。

今回お届けするのは、すてきなレストランの紹介、ではありません。サステナブル・シーフードを切り口に学ぶ、ビジネスの力で社会課題を解決する方法です。松井さんの挑戦のストーリーから学んでいきましょう!

サステナブル・シーフードとは

サステナブル・シーフードとは、適切な資源管理がなされて、資源量を保ちながら捕獲される魚介類のことです。GBGPでは、日本の水産資源の持続可能性について、こちらの「MSC認証」の記事でもご案内をしました。残念ながら、日本の多くの水産資源は、持続可能な状態ではありません。そこで、消費者としてはどのような選択をしたらよいのか?と思う方もいらっしゃるはず。そのための目印として現在日本でもよく見かけるようになったのが、MSCとASCという二つの海産資源に関する認証です。

MSC:Marine Stewardship Council(海洋管理協議会)が正式名称。イギリスに本部を置く非営利団体。同団体が提供している認証制度・ラベルの名称がMSCです。責任ある天然魚の資源保護と活用を目指している。

ASC ASC(水産養殖管理協議会)も、MSC同様に国際的な非営利団体で、2010年設立。持続可能で責任ある養殖水産物の普及を推進するため、認証制度およびラベルの普及に取り組んでいる。

MSCとASCのいずれも「海のエコラベル」として、一般に広まってきています。

松井さんがBLUEを経営している目的、それは

・日本にサステナブル・シーフードを普及し、
・水産資源問題への皆の関心を高め、
・漁業現場、供給サイド、消費者サイド、さまざまな角度から資源問題の解決を進めていくことです。

このような目的で活動するに至った、松井さんの原体験を伺いました。

大人になって気付いた、身近な海の資源問題

松井大輔さん松井さんは福井県敦賀市のご出身。水産物が観光資源であり、生活の基盤にもなっている場所で、海を身近に感じながら育ったそうです。そんな松井さんが海産物の問題に初めて気づいたのは、大学生の時。

「帰省した時、町内会で漁師さんたちと飲む機会がありました。近くにも漁師さんたちがいたので。楽しく飲んで話をしていたら、「お前たち小学生のころ、地引き網体験をしただろう?」と聞かれました。普通に楽しかった記憶しかなかったんですけど、「定置とか沖で取れた魚をお前たちが来る前に入れておいたんだ。それをお前たちが引いたんだよ。」と、その時は笑い話で聞いていたのですが、結構深刻な問題だなと感じました。」

当時すでにニュースではサンマやマグロの資源量減少が問題になっていました。

「まさか地元の目の前の海でもそんなに資源量が減っているなんて、と思いました。こういう状況を、知っていて動かないのも問題ですが、そもそも知らないことは問題だと思って。それに対して自分がどんなアクションを取れるだろうかと考えました。そこで第三者的にサステナブル・シーフードを担保してくれる組織はいるのかなと思って調べて知ったのがMSCでした。それが5年ほど前のことです。」

そこからの松井さんがすごいのは、「社会の課題に気づいてアクションしないのもどうか」の言葉通り、自ら、誰もしたことのないあるチャレンジをしたこと。それが日本初のサステナブル・シーフード“サンドイッチ店”でした。

サステナブル・シーフード普及にむけた最初のアクション

松井さんは地元福井で、魚を使ったサンドイッチ店を開業します。魚とサンドイッチ。意外な組み合わせに思われた方もいらっしゃるかもしれません。そこにはこんな理由があります。

「魚の食べ方というのは、昔から変わっていなくて、海鮮丼とかすしとか偏りがあります。実際には魚の種類はすごくたくさんある。でも食べ方に偏りがあるとマーケット需要も偏ってしまう。それだけを狙って取ってしまうということもあるのではという仮説を持っていました。新しい食べ方を提案したい、海外ではよくある、パンと魚という新しい食文化とともに、水産物の現状を伝えられればいいなと考えました。それにテークアウトだと、パッケージのデザインにメッセージを落とし込み消費者の方に視覚的に訴えやすいとも考えました。」

サステナブル・シーフードを提供するのに直面した課題

サンドイッチに使ったのは、カニ、甘えび、カレイ、サーモン、ホタテ貝。すべてMSC/ASC認証が付く海外産の物で海のエコラベル付きサンドイッチした。

「普通の飲食店だと、魚屋さんに○○○○を持ってきて、と頼めば済むんです。でも僕たちの場合は、カレイの認証を持っているところ、カニの認証を持っているところ、それぞれが違い、しかも福井なので配送システムがない。それぞれ宅配便で届くので、配送コストと手間がかなりかかりました。

飲食店として調達は重要問題です。

さらにお客さまから発せられる、「なんでこんなおいしい魚が目の前にあるのにそれ使わないんだ?」という質問。「地元の魚のおいしさというのは昔から食べていたんで知っていたんですけど、認証が付いたのは海外からくるので冷凍なんですね。目の前の海にめちゃくちゃおいしい魚があるのに、お客さんに出せないもどかしさはありました。」

「これは何?」からサスティナビリティを自分ゴトに

 サンドイッチ店のお客さまは、地元の家族連れから観光客までさまざま。一番多い反応は「これ(MSC/ASC認証マーク)は何?」というものでした。話すうちに、水産物の現状についての関心が高まることを、松井さんたちは期待していました。興味深いのは、「特に、お子さんを連れた方、サステナブル・シーフードについて関心が高かった」ということ。

残念なことですが日本は、「サスティナビリティ」に関する取り組みは、食の分野に限らず、企業も個人もまだまだ後れを取っています。いろいろな理由がありますが、一因としては、まだこの概念自体が、自分ゴト化されていないというのもあるのでしょう。親たちが、水産物が将来食べられなくなるかもしれない、という問題に強く反応するのは、それが自分の子供の将来に影響するからで、まさに自分の問題と感じるからだと思います。

松井さんのサンドイッチ店は、MSC日本事務局が運営するメディアや地元のテレビ番組で紹介されるなど、だんだん認知も上がりお客さまも増えます。リピーターに加え、中には、遠方からそのために来てくれる人もいたそうです。でも、松井さんはこの取り組みに満足しません。1年ほどでサンドイッチ店の経営を終えると、もっと大きなインパクトのある取り組みを東京で実現しようと、歩みを進めたのです。

※GBGPでは通常「サスティナビリティ」と表記をしています。ただし、「サステナブル・シーフード」についてはこの表記が一般的であり、それに倣います。


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山田有佳

京都大学総合人間学部、同大学院人間・環境学研究科修士課程修了。専攻は文化人類学、クロアチアで戦災からの街の復興をテーマにフィールドワークを行う。
株式会社ビジネスコンサルタント入社後、企画営業、営業マネジャーを11年。現在はサスティナブル経営を目指す企業やそこで働く人たちに向けた情報発信や能力開発プログラムの開発を担当。サスティナブルな選択をするビジネスパーソンが一人でも増えることを目指している。