SDGsが目指しているものとは?

日本でも様々な企業・団体が取り組みを始めている国連持続可能な開発目標、SDGs17個の目標から構成されています。もちろん一つ一つに重要な意味があるのですが、全体として何を目指すものなのでしょうか?

「サステイナビリティというと、日本では環境の問題だと、わりと狭く感じてしまうかもしれません。でも、それだけではなくて、サステイナビリティを、社会的な課題までもっと広げて考えることがSDGsの環境の中では大切だと思います。SDGsというのは、つきつめると、人類全体のwell-beingをめざすものです。

とメッセージするのは、同志社大学大学院ビジネス研究科で、国内外の学生を指導している飯塚まり氏。飯塚氏は、留学先のスタンフォード大学では、スティーブ・ジョブズらも実践していた「ZEN」に目覚め、その後は世界銀行に勤務。スリランカで爆弾テロに遭い、またフィリピンで農村にある工場の経営を調査していたらゲリラと知り合うことになった・・・という、異色の経歴をお持ちの大学教授です。2016年には、日本グローバルコンパクト・アカデミックネットワークを立ち上げ、企業・大学・学生が連携し、サスティナブルな社会づくりに向け取り組む活動に携わっています。

そして、飯塚氏の専門分野の一つが「well-being」。冒頭ご紹介したメッセージにも出てきた、今回のキーワードです。

飯塚まり氏グラフィックレコーディング

Well-beingとは、簡単に言えば幸福な状態、のことを指します。ただし、「お金を儲けてうれしい、といったような個人の一時的なハッピーという感情ではなく、人間として非常に奥深い幸せな状態」(飯塚氏)を指すのだそう。

2019年4月23日に、株式会社ビジネスコンサルタントが開催した「SDGsが導く社会と経営のリデザインを考える~SustainOnline日本発売記念イベント~」。今回は、飯塚まり氏(同志社大学大学院ビジネス研究科教授、Well-beingリサーチセンター センター長)のトークセッションから、well-beingとは何か、それがSDGs時代の組織運営にどう役立つのか?をお伝えします。

過去の記事はこちらから

第1回 SDGsが導く社会と経営のリデザインとは?

第2回 トレード・オン:経済・環境・社会の価値を同時に高める、これからのビジネス戦略

SDGsをwell-beingでひも解いてみる

飯塚氏は、SDGsが目指すところは人類全体のwell-beingの実現だと捉えると同時に、SDGsの達成には、well-beingを高めることがカギになるとも考えています。いったい、どういうことなのでしょうか。

Well-beingとは、個人の一時的な「嬉しい」「幸せだ」という感情ではなく、身体的、精神的、そして社会的にも満たされた、より長期的に感じる幸せのことを指します。

SDGsロゴ

飯塚氏の指摘をもとにSDGsの目標をもう一度見てみましょう。
「貧困をなくそう」「飢餓をゼロに」などは、発展途上国向けの目標のように感じる方もいるかもしれません。しかし、日本でも6人に1人は相対的貧困だと、2009年に厚生労働省の「国民生活基礎調査」で指摘されています。貧困の結果、栄養のある食事をとることができない状態では身体的にも精神的にも幸せだと言えません。

「気候変動に具体的な対策を」「海の豊かさを守ろう」「陸の豊かさも守ろう」 などはまさに環境に関する目標です。しかし気候変動によって近い将来、住居やコミュニティを奪われることが予想されている国や地域もありますし、日本でも豪雨や異常気象によって安心して生活できないなど、精神的、社会的な幸せに影響を与えています。海や陸の豊かさはバラエティー豊かな食べ物をなくしてしまい、やはり身体的、精神的な健康に影響してくるのではないでしょうか。

「質の高い教育をみんなに」や「働きがいも経済成長も」などは社会的・精神的な幸せに直接的に関係する目標です。

このように考えると、たしかにSDGsが目指すものは、環境と社会の健全さによって達成される、人類全体のwell-beingなのだと分かります。

そして、このいかにも容易ではないと感じられてしまうSDGsの達成には、私たち一人一人、そして社会全体としてwell-beingを高めることがカギになると飯塚氏が主張する背景には、well-beingと人間の脳、そしてパフォーマンスとの関係があります。

飯塚氏は、これを「人間の脳に生物的に備わった能力」として、実際に体感できるよう説明してくれました。

人間には、脳の細胞レベルで共感できる力がある

誰かの幸せそうな笑顔を見て、自分もつい笑顔になる。誰でもそんな経験をしたことがあると思います。これは人間の脳にあるミラーニューロンの働きと言われています。ミラーニューロンとは、他人の行動を見たときに、自分も同じ行動をとっているかのように活動する神経細胞のことです。

人が喜ぶことをすれば自分も幸せな気持ちになるのは、道徳的にいいことをしたという満足感からくるものではなく、人間の脳にもともと備わっている特性なのです。

飯塚氏が準備してくれたエクササイズは次のようなもの。

エクササイズ【3つの感謝】

二人一組になり、以下の手順で行います。

・今日、朝起きてから感謝することを3つ思い浮かべます。
「朝ごはんがおいしかった」や「時間に間に合った」でも何でも構いません。
・思い浮かんだ感謝することを、1分間、ペアの人に話します。
このとき、相手方の「聞き方」が重要です。自分の人生の1分間を相手にあげる気持ちで、柔らかな心でただ耳を傾けてください。
・話す・聞くの役割を交代して、同じことをもう一度行います。

人は感謝することを話していると、幸せな表情になります。その様子に注意を向けていると、相手の心の動きが伝わってきて、自分までうれしい気持ちになります。
飯塚氏によると世界の優れたリーダーは、他者に共感する能力が高いそうです。そしてビジネスでも結果を出しています。

人間には、時間を飛び越えられる想像力がある

自分が存在していない遠い未来のことでも、私たちの脳は想像する力を持っています。自たちがいなくなった未来の世代の幸せについても、思いをはせることができます。

エクササイズ【長い長い物語】

私たち人間に備わった豊かな想像力を体感するのが、このエクササイズです。

・目をつむって一万年先を想像してみます。 そのときあなたの身体はもうないだろうけれど、でもあなたの意識のかけらがまだどこかに残っているとしたら、何を見ているでしょうか?視点を自由に動かして、地球を俯瞰したり、どこでも好きな場所へ行ってみたりしてください。

どんな光景が見えましたか?私たちは時間を飛び越えられる豊かな想像力を持っています。自分のことはもちろん、自らがいなくなった未来の世代の幸せについても思いをはせることができます。このような力は、人類全体のwell-beingを目指すSDGs達成の推進力になります。

そしてもう一つ、飯塚氏が紹介したエクササイズからは、サステナビリティのためにイノベーションを起こすときに知っておきたい、人間の脳の特徴への気づきがありました。

マインドフルネスで脳の自動操縦に気づく

私たちの脳は、見慣れたものに対しては意識することなく自動的に情報を処理してしまう特性があります。まるで自動操縦です。これは日常生活をスムーズに送ることには役立ちますが、今までの経験がそのまま当てはまらない状況においては、足かせにもなりえます。

エクササイズ【マインドフルに見る】

まず自分をはじめて地球にやってきた宇宙人か、生まれたての赤ちゃんだと思ってください。そして自分の右手をじっくり“観”ます。まるではじめてこの物体を目にした、という気持ちで観てください。色や形などをじっくり観察します。それをゆっくりゆっくり数分間続けてみてください。

自分の右手が〝何かわからないもの″に感じられませんでしたか? 私は自分の右手にピンクや白、血管の緑など、いろんな色が含まれていることに気がつきました。意識を集中することで、当たり前だと思っているものごとの枠組みを取り外せば、新たな気付きが得られます。 そしてこの「心の自動操縦に気がつく」ということは、ネガティブなことに流されがちな心にも気がつくということにつながりますので、well-beingに通じます。

恐怖よりも楽しさが成功のカギ

こうしてwell-beingを体感してみたのち、飯塚氏が強調したのが、「確かに、地球の状況は危機的なもの。しかし、SDGs達成のためには恐怖や危機感で動くより、楽しい心で動く方が効果的だ」ということです。

ここにも、人間の特性が関係しています。飯塚氏は、ある実験 (Freedman&Foster, 2001) を紹介してくれました。

最初の課題:できるだけ早く、迷路を抜ける
課題の概要:被験者に渡された課題用紙は、次のような設定です。迷路自体は同じものです。
グループA:ネズミは、出口に置かれた好物のチーズを食べるために迷路を抜ける
グループB:ネズミは、捕食者であるフクロウから逃げるために迷路を抜ける

両グループとも、同じ時間で迷路を抜けることができました。

しかし、その次に、「想像力を必要とする課題」を与えたところ、チーズ群(グループA)はフクロウ群(グループB)より2倍も想像力を発揮したのです。

ここから言えるのは、人間は恐怖を感じながら行動すると、回避モードになってしまい、創造力を発揮できないということです。心が回避モードになってしまっては、思考が狭まり解決策を見つけることが難しくなります。地球環境はたしかに危機的な状態にありますが、「危機だ」と言って取り組んでも創造的でイノベーションにつながる解決策を見つけにくくなります。むしろ楽しい心で問題に対処する方が、創造的で持続可能な方法を見つける可能性があります。また、楽しい心を持つことが、well-beingを高めることにつながります。

サステナブル・シーフードのポジティブな実例

今回のイベントでも、楽しい心で問題解決にのぞむ試みが行われていました。途中のランチタイムには、MSC認証やASC認証などのサステナブル・シーフードを使ったビュッフェが振舞われました。宮城県南三陸町産の牡蠣(ASC)や、アイルランド産のサバ(MSC)などを使った料理は、どれも食欲をそそる色合いで、バラエティーも豊富、そして味も格別でした。

サステナブル・シーフード

サステナブル・シーフードを使うことは、資源の乱獲を防ぎ、海の環境を守ることにつながります。だからといって「環境が危機的な状況だから、普及させましょう」と危機感を伝えるだけでは、先ほどの実験結果からすると高い効果は期待できません。それよりも、おいしい料理にして提供すれば、食べた人はポジティブな印象を持ち、より効果的に広めることができます。

サステナビリティ推進のヒントは日本にあり!

Well-beingを高めるためには、ご紹介したエクササイズのように、自分や他人の感情によく気づいたり、ちょっとしたことに感動をしたり、ものごとをよく観たりすることが重要です。そのための練習は、日本では、禅を下敷きにして 古くから行われてきました。座禅をはじめ、茶道、剣道、華道は、すべてその様式を取っています。飯塚氏によると、日本の長寿企業の経営者は、こうしたたしなみを身に付けた人が多いそうです。Googleやappleなどが導入しているマインドフルネスも、もともとは仏教の瞑想が元になっています。

飯塚氏のメッセージからは、改めて、日本ならではの文化、実践から、サスティナブル経営やそれに必要な組織運営のヒントを学びなおす必要があるのでは、と感じさせられました。

参照:Friedman, R.S. & Forster J. (2001), “The effects of Promotion and Prevention Cues on Creativity,” Journal of Personality and Social Psychology 2001, vol 81, no 6, 1001-1013.


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