リーダーシップ論なんて、書籍を読んでも実際のビジネスの中ではそんなに生きないし、最近はやりのシリコンバレーのリーダーみたいになれるわけでもない。そんな本音を抱いている方はもしかしたら多いのではないでしょうか。今回からご紹介するのは、個人と組織への効果が、科学的に研究・実証されている「ポジティブリーダーシップ」です。効果が確かなものだとわかれば、そのリーダーシップを自分も発揮してみたいと思いませんか?

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左:キム・キャメロン博士 右:原田俊彦氏

ポジティブリーダーシップを提唱しているミシガン大学のキム・キャメロン教授と、キャメロン教授のリーダーシップセミナーを受けて、グローバル企業のマネジメントに活かしてこられた原田俊彦さんから、理論と実践のコツの両方を教えていただきました。

※「働く喜び・生きる幸せ」を感じられる組織づくりをめざす株式会社ビジネスコンサルタントでは、ポジティブ組織論の第一人者と実践者を招いて開催したセミナー(『ポジティブリーダーシップの理論と実践』:2017年1月11・12日)の講演内容から、今後数回に渡ってポイントをご紹介していきます。

好業績組織はポジ出しが得意!

まずはこの数値、何を意味していると思いますか?

「5:1」

これは、キャメロン教授が学生らと一緒に研究をした、好業績組織のトップマネジメントチームに見られた、コミュニケーションにおけるポジティブ発言とネガティブ発言の比率です。実験結果としてはポジティブ:ネガティブ=5.6:1。皆さんの組織ではどれくらいの比率になりそうでしょうか?
ちなみにこの時、キャメロン教授は同時に低業績組織のトップマネジメントチームについても研究をしています。その場合はポジティブ:ネガティブ=0.36:1となりました。好業績組織と低業績組織では、ポジティブ発言の比率が全く違ったのです。ここでのポジティブ発言とは、支援的だったり、お互いを認め合うような言葉掛けのこと、ネガティブ発言とは、批判的・拒絶的な声掛けのことです。パフォーマンスとコミュニケーションのポジティブさには、明らかな関連性があるのだそうです。

※詳しい実験内容は文末にご紹介します

なぜリーダーシップを科学する必要があるのか

キャメロン教授によると、リーダーシップは、戦略・文化・プロセス・報酬システムといった他のどのような組織の構成要素と比較しても、組織の成功に対してもっとも影響力が大きいそうです。もともと組織文化の研究者として著名であったキャメロン博士は、成功する組織には卓越した文化があり、そこには素晴らしいリーダーがいることを知っていました。

それほど組織に重大な影響を与えるにもかかわらず、リーダーシップに関わる膨大な書籍のほとんどが、「ある成功したリーダーについてのストーリー」「効果的なリーダーシップのためのトップ10リスト」といったものばかりで、科学に根差しておらず、多くの人が自分には当てはまらないと思っている。であれば、どのようなリーダーシップが組織に素晴らしい成果をもたらすのかを科学的に調査して、経験的根拠(妥当性)と科学的根拠(説明)を示し、多くの人が実践するための具体的な方法(アプリケーション)を開発しようということで、キャメロン教授は研究を進めてこられたそうです。

人と組織に良い効果をもたらすのは「ポジティブリーダーシップ」

結論からいうと、組織にとって有効なのは、「ポジティブさ」に注目をするリーダーシップです以前の記事でもご紹介をした、「ポジティブエナジャイザー」が活躍できる環境づくりをしているリーダーがいることが重要です。ここでいうポジティブさとは、ただ単に前向き・明るいといったことを意味するのではありません。未来志向で、普通より並はずれて高い水準、弱みを克服するよりはもともとある強みを活かすこと、徳の高い、親切、思いやり、といったことを意味します。キャメロン教授は、「逸脱の帯」ということばで説明してくださいました。

逸脱には、ポジティブとネガティブの両方向がある

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図① 逸脱の帯

逸脱というのは普段あまり良い意味で使われることばではなく、例えば英語で「あなたは逸脱(deviant)です」というと、批判的な言い方になってしまいます。しかし元々の定義では、逸脱とは「正常値から外れている」という意味です。ですからキャメロン教授によると、逸脱には、「ネガティブな逸脱」もあれば、「ポジティブな逸脱」もあってしかるべきで、図①のようにひとつの帯として捉えることができるのだそうです。

例えば、心と体の健康を例に、逸脱の帯を考えてみます。

身体的には、風邪を引いた、糖尿病、深刻な病気になった、というのはネガティブな逸脱です。心理的には、強い不安やストレス、プレッシャー、PTSDやADHDといったことが、ネガティブな逸脱です。キャメロン教授によると、身体的にも心理的にも、医学的な調査の90%以上はこのネガティブな逸脱を対象としてなされているそうです。
一方で、身体的・心理的にポジティブな逸脱というのも存在します。身体的には、例えばオリンピック選手並みの身体能力があるといったら、並はずれて良い状態といえます。心理的にも同様で、例えば以前に本サイトでもご紹介をした「フロー状態」というのはポジティブな逸脱のひとつです。

※フロー状態とは、時間を忘れ、身体的な感覚が希薄になるほどに、目の前に課題/タスクに集中し、生産性の高い状態のこと

ポジティブなリーダーは、皆が何に注目するかを意識している

では、組織については、どんな逸脱の帯が存在しているのでしょうか?

皆さんの職場では日ごろ、マーケットシェアが下がった、顧客数が減った、従業員の離職率が高い、売り上げが落ちた、といったことばかりに注意を引かれていませんか?これらネガティブな逸脱の方にばかり目を向けて、黒字化、生産性向上、効率化、従業員満足や顧客満足の向上、といったことに多大なエネルギーを割いています。

個人の健康状態の例えと同様に、組織の場合にも、帯の右側には「ポジティブな逸脱」があり、実はこれが大変高いパフォーマンスを上げている組織の特徴なのだそうです。キャメロン教授は「virtuous condition(徳の高い状態)」と呼んでいて、ポジティブなエネルギーにあふれた状態を指しています。組織がこの徳の高い状態になれば、正常な(normal)状態よりもはるかにクリエイティブになり、生産性もはるかに高まるのだそうです

ポジティブリーダーシップとは、帯の左側にある「ネガティブな逸脱/欠損のギャップ」(左向きの矢印)を埋めることに力を注ぐのではなく、右側の「ポジティブな逸脱/豊かさのギャップ」(右向きの矢印)に組織の皆が注目できるようにしかけていく、そういうリーダーシップです。正常で良い、ではなくて、とんでもなく良い状態に注目していこう、とキャメロン教授は呼び掛けています。

「ひまわり効果」を理解してポジティブリーダーシップを発揮する

普段の目標達成でも大変なのに、とんでもなく良い状態に注目しようと言われても…と戸惑いを感じますよね?でも、「豊かさのギャップに注目を集めるポジティブリーダーシップを発揮したい!」という方には、朗報があります。キャメロン教授によると人間には「ひまわり効果」が当てはまるのだそうです。そうです、あの、植物が太陽の方にむかって自分で向きを変える性質です。人間の場合には、太陽の光ではなくて、徳の高い、皆が意義を感じられる、ポジティブなエネルギーや目標ということになります。

この性質が人間の健康や行動に及ぼす影響がとても強いもので、組織運営に活かさない手は無い!ということを、キャメロン教授は教えてくださいました。詳しくは次回の記事でご案内します。どうぞお楽しみに!

(グラフィック担当 株式会社ビジネスコンサルタント遠藤麻衣子)


【60組織のトップマネジメントチームを対象としたコミュニケーションの傾向に関する研究】

この研究では、60組織のトップマジメントチームを集め、その組織のパフォーマンスとコミュニケーションスタイルとに、何らかの関係性があるかを調べました。

※実験の概要
ステップ①実験に参加する組織を、様々な指標(生産性や顧客満足度など)であらかじめ分析し、パフォーマンスの高い・普通・低いで分類する。
ステップ②それぞれのトップマネジメントチームに、大学の実験室にて、あるテーマについて話し合ってもらう。その話し合いの様子を大学院生が観察し、どのような言葉を使っているかを分析する。

※実験の結果
組織のパフォーマンスによって、使われる言葉のカテゴリーやコミュニケーションの方向性に大きな違いがあることが判明しました。以下はその抜粋です。
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出所:㈱ビジネスコンサルタント主催 WINセミナー(2017年1月開催)より作成


ポジティブ・リーダーシップシリーズ
1.リーダーシップを科学する_ポジティブリーダーシップで本当に豊かな組織づくりを①
2.リーダーに朗報!人の「ひまわり効果」とは_ポジティブリーダーシップで本当に豊かな組織づくりを②


ポジティブな逸脱に注目できるチーム作り、組織作りのご参考になるeBookはこちらです!




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山田有佳
京都大学総合人間学部、同大学院人間・環境学研究科修士課程修了。専攻は文化人類学、クロアチアで戦災からの街の復興をテーマにフィールドワークを行う。 株式会社ビジネスコンサルタント入社後、企画営業、営業マネジャーを11年。育児休業から復帰後、WEBマーケッターとしてのキャリアをスタート。聞きなれないIT用語と格闘しつつ、サステイナブルな未来につながる選択をしようという人が増えるためのメッセージの発信を目指している。