プロジェクトチームで長期ビジョンを作り、サスティナビリティを高めるためのビジネスプランもできた。でもいざ組織で取り組もう! というときに直面するのが、「私の日々のシゴトと、サスティナブルな未来を作ることがどうつながるの?」という、多くの社員からの冷めた反応です。前回の記事では、サスティナビリティへの関心を持ってもらうために、最初は経営の話ではなく皆にとって身近な話題で始めてみることをお勧めしました。その一例として、水産資源の持続可能性を高めるための認証制度を世界に広めているMSC(海洋管理協議会)についてご紹介しました。
サスティナブル経営の先進国・スウェーデンを度々訪問している私の同僚によると、現地では魚屋・スーパーはもちろん、レストランでもこのMSC認証のマークを普通に見かけるそうです。そしてスウェーデンの方はレストランでも、「このメニューで使っている魚は、認証のもの?」と確認してからオーダーするそうです。例えばおすし屋さんで注文するときに、「これは資源管理のされたマグロですか?」と聞いている人、私は見かけたことはありません。日本とヨーロッパとで食物の持続可能性に関する基準の普及や捉え方がこうも違うのはなぜなのでしょうか。
MSC日本事務所の牧野さん、鈴木さんに、日本の水産資源の現状や、他国との違いについて教えていただきました。

MSC認証を選ぶ=持続可能な漁業を応援すること

魚が獲られて消費者に届くまで、MSCの認証は2段階あります。
漁業を対象とする「MSC漁業認証」と、サプライチェーンを対象とする「CoC認証」です。(※1)

MSC認証の流れ

※MSC日本事務所資料より

漁業者への認定は、MSCとは別の独立した認定機関により行われます。認定は経験ある科学者が中心に行い、透明性の高い公開のプロセスで進められます。MSC認証を取得した漁業者は、魚を適切な方法で獲ります。その魚はCoC認証を取得している卸売り・加工・流通・小売業者によって、認証を受けていない魚と混ざらないように厳格な管理をされ、海のエコラベルを付けた製品として消費者に販売されます。ですから、消費者として海のエコラベル付きの製品を買うことは、
持続可能な漁業に取り組む漁業者を応援すること であり
小売業者にそのような製品をより多く提供するようメッセージを発すること であり、
・ひいては、水産資源の持続可能性を高めることにつながる選択をすること
になるのだと言えます。

高まりつつあるMSCへの関心

MSC日本事務所は2007年の設立、現在は7名で活動をされています。牧野さんによると、「ここ数年で認知度は高まっていると思います。MSC認証製品私どもへの問い合わせも、以前は『MSCってなんですか』という一から説明してほしいというものが多かったのですが、最近では『どうしたらMSCの認証を取れますか』といった、MSCのことは既に知っていてさらに深く知りたい、というものが増えています」
MSCの広がりには、オリンピックも関係しているようです。そもそもオリンピックは「環境破壊をしている」と批判を受けていた時代がありました。例えば、「4年に1度しか開かれない、数日間の大会開催のために何百年も続いた森を伐採するのか」、「大会後は使われない施設が残る」、…など。オリンピック憲章のスポーツ・文化・平和に「環境」という4つ目の要素が加えられたのが1994年。2012年のロンドン・オリンピックでは史上最高にサスティナブルな開催が目指され、選手村で提供される食材にも初めてサスティナビリティに関する基準が導入されました。2016年のリオ・オリンピックではさらに前進し、組織委員会とMSCとASC(※)が正式な締結を交わしました。その結果、選手村で出されたシーフードの75%はMSC・ASC認証のものになったと言われます。
MSCの調査によると、世界では食用向け天然魚を対象とする漁業の12%を超える1100万トンはMSC認証になっており、白身魚に限れば漁獲量の46%にも上るそうです。日本の天然魚の年間漁獲高は約470万トン、世界でも水産資源に恵まれた国と言われています。しかしその一方で、マグロ・ウナギ・イワシ・ホッケなど身近な魚で資源量が低下しているという話もよく耳にします。日本でMSCが海外ほど広まらない理由がどこにあるのか、ますます気になってきます。

日本におけるMSC認証の現状

現在日本でMSC漁業認証を取得しているのは、京都のアカガレイ漁業(2008年認証取得)、北海道のホタテガイ漁業(2013年)、宮城のカツオ・ビンナガマグロ漁業(2017年)の3件です。そして約250品目の海のエコラベル付き製品が市場で販売されています。
世界では約320の認証取得漁業、2万5000品目の製品がある(2017年4月現在)ことを踏まえると、相当少ないように感じられます。MSCの漁業担当として日々日本各地の漁業者にMSC認証取得を働きかけ、一般への普及活動にも携わっている鈴木さんに、漁業者や流通の実態を伺いました。

【日本の認証取得漁業は現在3件】

msc「今日の魚の獲り方は、未来につながっている。」・日本国内でMSC認証を取得している漁業者らは、過去の資源減少の反省から積極的に資源管理に取り組み、資源量を回復させてきた歴史がある。そのため認定取得でさらなるブランド価値向上を目指せると考えている。特に北海道のホタテのように欧米へ輸出をしている場合、海外の取引先からも要望がある。
・宮城のカツオ・ビンナガマグロ漁は、もともと加工業者だった会社が、震災後の原料不足に危機感を抱き、漁業に参入。業界に一石を投じる思いでMSCを取得、MSCの取り扱いに熱心な大手流通業者との契約により、カツオは全国で販売されるようになった。現在2隻の漁船は来年には4隻に増やす。

【流通構造の違い】

一消費者としては、もっと一般的に海のエコラベルの付いた魚や製品が売られていればよいのにと思います。店舗でMSC製品を見かける機会が少ない理由のひとつとして、日本の流通構造の違いが挙げられるそうです。アメリカならWalmart(※3)、ヨーロッパではSainsbury’s(英)やCarrefour(仏)といった大手企業が市場のシェアを握り、MSCの取り扱いを積極的に進めて消費者の支持を得ています。一方、日本では大手の流通業者によるマーケットシェアはそこまで高くありません。多くの中小の小売業者がコストや組織体制の面からCoC認証の取得をためらっているのが現状です。大手企業であれば、サプライチェーンの監査は必須です。またブランド価値・従業員のモチベーション向上といった観点からも、MSCを積極的に採用することにメリットを感じています。

日本でのMSCの本格的普及はこれから!

この現状に対して、鈴木さんはまったく悲観していません。
「1997年にイギリスで発足したMSCですが、最初の認証漁業が登場したのは2000年。10年目の2009年の時点では認証を取得した漁業は30件でしたが、その後の8年間で300件を超えるほどに増えました。新しい制度ができて、それが浸透し、皆がその価値を認めるようになるにはある程度の時間が必要です。ヨーロッパでも、最初の頃はこんな仕組みは浸透しないのではないかと言われていました。だから日本は特殊だから、文化が違うから広まらない、といったことはなく、日本でもこれから急激に増えていくと思いますよ。
その認証が何を重視しているものかを知り、理解をして、製品を選んで買う。それで将来が変えられるなら、ちょっとワクワクする選択だと思いませんか。

※1 認証の基準や仕組みは、MSC日本事務所のブログやウェブサイトに詳しく紹介があります
「認証取得に向けて MSC漁業認証審査プロセスの手引き」
https://www.msc.org/documents-ja/fishery-coc-process-guide/7f4dkv/view
「認証取得に向けて CoC標準バージョン」
https://www.msc.org/documents-ja/fishery-coc-process-guide/JA_MSC_get_certified_CoC.pdf/view
※2 ASC(Aquaculture Stewardship Council:水産養殖管理協議会)とは養殖業の持続可能性に関する認証制度です。環境負荷や地域社会への影響を評価項目としています。
※3 かつては環境負荷を考慮しない経営でステークホルダーから多数の訴訟を起こされていたWalmartは、2000年代中頃からサスティナブル経営にかじを切り、ブランド価値を再構築しています。Walmartでは天然水産物の供給源はMSCあるいはそれと同等の認証取得漁業に限定しています。


併せてお読みください
サスティナビリティへの一歩は「知ること」_MSC認証①


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山田有佳
京都大学総合人間学部、同大学院人間・環境学研究科修士課程修了。専攻は文化人類学、クロアチアで戦災からの街の復興をテーマにフィールドワークを行う。 株式会社ビジネスコンサルタント入社後、企画営業、営業マネジャーを11年。現在はサスティナブル経営を目指す企業やそこで働く人たちに向けた情報発信や能力開発プログラムの開発を担当。サスティナブルな選択をするビジネスパーソンが一人でも増えることを目指している。