週末を利用して地元に帰ったとき、保険会社で働く知人と話す機会がありました。

知人の部署では、正社員、契約社員、派遣社員などさまざまな雇用形態、就業形態の方が一緒に働いているそうです。マネジメントが大変だろうと思い、何に気をつけているのか聞いてみました。

本人なりの工夫は、チェックリストを使ってメンバー全員と直接会話した回数を記録しているというものでした。この「直接会話した回数」というのは、話しやすい人や仕事で密に関わる人についつい集中しがちになるので、週に1度、このリストで見直しているそうです。

過去の調査によれば、マネジャーの毎日の活動の約70%がコミュニケーションに費やされているそうです。

今回は、マネジャーの部下に対するコミュニケーションにおいて、見落としがちなポイントやコツをお届けいたします。

最近、いつ部下と一対一で向き合いましたか?

「あえて時間を取る」
これは大切なことだとわかっていても、実際は難しいのではないでしょうか。

ある調査によれば、部下を持っているマネジャーのうち、マネジメント業務だけを行っている人の割合は2.7%でした。ほとんどのマネジャーは、プレイヤーとして自らの売上数字や目標を達成させるための活動を、当然のように行っています。

さらに、リスクマネジメントの観点の業務負荷もあいまって、部下との面談に時間を割くのが難しいくらい多忙な状況におかれています。最近では、評価面談以外に、頻度や時間を決めて部下との面談を義務化している会社もあるそうです。

外資系メーカーのある部門では、2週間に1度、直属のマネジャーとの一対一の面談を義務づけたとのこと。海外にいるラインマネジャーとは、ビデオを活用して面談を行います。これはメールやチャットに頼る文化を危惧した部門長が、顔を合わせてのコミュニケーションを重要視して始めたことだそうです。

今では、部下を持つマネジャーの予定表は、6か月以上先まで面談の予定が入っていると聞きました。

また、別のIT企業では、週1回30分の面談を人材開発の中核に位置づけているそうです。当初は現場の抵抗があったものの、今ではもっとも良い制度として社員に評価されています。

結果として、退職率の低下にもつながったそうです。

部下の成長を促す意外なポイント

部下の能力向上への影響要因を調査した研究から、以下の2つの要素が組み合わさる事がポイントだとわかりました。

  • 部下の内省
  • マネジャーの成長する姿を見る

式にするとこういう形になるでしょうか。
内省 × マネジャーの成長する姿を見る = 部下の能力向上

マネジャーが部下と向き合う時間を取ること自体が、「部下の内省」の機会になります。さらに、その面談中次のように問いかけをすると、より内省を促すことができるといいます。

  1. 先入観をもたずに問いかける
  2. 部下のもつ前提や仮説が正しいのかを問いかける
  3. 何がうまくいったのかを問いかける

冒頭にご紹介した保険会社の知人は、メンバーが仕事で行き詰まっている時の面談では、まず何に困っているのか話を聞くそうです。ときには、ホワイトボードを使いながらその困った状況を図にしていく事もあるといいます。

話をするなかで、メンバーが問題だと思い込んでいたことが実は問題ではなかったり、あるいは、メンバー自ら新たな視点に気づいたりすることもあるそうです。

部下の内省を促し成長に導くためには、目の前の部下は今何を感じているのか、その行動や発言の裏にはどんな価値観や前提が隠れているのか、しっかり部下本人と向き合って把握する必要があります。

心理的な動きや置かれている環境理解も含め、なぜそのような思考に、行動になるのかを洞察するためは、マネジャーが”深い人間理解”を図ることが必要です。

部下を成長に導くためには、スキル・テクニック等の育成もさることながら、”人間理解”をしながら部下自身の内省を深め、部下の状況にあった導きが求められるのです。

また、マネジャー自身も内省したり、他者からのフィードバック、助言や問いかけを受けることはマネジャー自身の成長の為にも非常に有効です。
何も言われないでいるマネジャーよりも、良いことも悪いことも含めてフィードバックをもらえるマネジャーの方が、職場全体の業績が良いそうです。

つまり、「マネジャー自身が成長」するためには、自分自身を理解し他者からのフィードバックを素直に受け入れる態度がとれることも大切なのです。

先の方程式でいうと、自らが成長しているマネジャーの姿を見せることは、部下の能力向上に影響します。
部下の内省を促し、マネジャー自身が成長できる環境を作り出すには、自分を含めた”人間理解”が重要ですね。

【参考情報】
深い人間理解を体験学習する講座 HEP(ヒューマン・エレメント プログラム)
『職場学習の探究 企業人の成長を考える実証研究』(2012)生産性出版 中原淳編
『駆け出しマネジャーの成長論 7つの挑戦課題を「科学」する』(2014)中公新書ラクレ 中原淳著

廣瀬 沙織
東京工業大学大学院 社会理工学研究科 修士課程修了/ 一般社団法人日本ポジティブ心理学協会 理事。 株式会社ビジネスコンサルタントにて営業マネジャー職を担当。その後、同社における顧客組織の組織開発と人材開発への投資効果と投資効率を最大限に高めるための会員制サービスの商品戦略を担当。現在は同社の研究開発マネジャーとして、サステナブル社会の実現のため、ポジティブ心理学やイノベーション理論、自然科学ベースの戦略策定フレームワークに基づく商品開発およびその実践を担当。