「仕事を楽しんでいますか?」経営トップの話が変わってきた!

企業の管理者研修の講師を担当する際、冒頭に経営トップが講話されることが多くあります。最近、その話の内容が変わってきました。

今までは、「これから大変だ」「変革だ」「売上目標達成!」「利益目標死守!」という叱咤(しった)激励が多くありました。最近は「あなた自身は仕事を楽しんでいますか?部下は仕事を楽しんでいますか?」と問いかけ、その必要性と重要性を説くことが増えています。
しかしながら、それを聞いている管理者を見ていると、納得できない表情のように見受けられることが多々あります。「楽しめないよ」とでも言いたげです。

私が思うに、どうも社長が言う「楽しむ」と管理者が捉えている「楽しむ」が異なっているようなのです。

仕事を楽しむとは?「快楽」だけを指すのではない

「楽しむ」という言葉から一般的に想像されるのは文字通り「楽しい気持ち・感情=快楽」てしょう。確かに、趣味や遊びに興じている時は楽しく、快楽の状況になっていると言えます。経営者の話を聞いた管理者も、「仕事で“楽しい気持ち・感情=快楽”などは味わえない、それどころではない。」と受け止めたと考えられます。
しかし、仕事を楽しむとは、快楽のことだけでしょうか。私の研究分野の1つでもあるポジティブ心理学では、楽しむということを、快楽以外にもあることを示してくれています。

ポジティブ心理学で「仕事を楽しむ」を理解する

ポジティブ心理学はごく普通の人々が「ウェル・ビーイング(Well-being):より良い生き方」を実現することを目的とする学問分野です。ウェル・ビーイングとは、単に主観的な満足感(楽しい・うれしい)が高いだけでなく、「生きがいのある人生を送っているという良い状態」とされています。

以前にもご紹介したように、ウェル・ビーイングには次の5つの構成要素があります。

P=Positive Emotion(ポジティブ感情)
E=Engagement(フロー状態を生み出す活動への従事)
R=Relationship(他の人との良い関係性)
M=Meaning and Purpose(人生の意味や仕事の意義、および目的の追求)
A=Achievement(何かを成し遂げること)

ここから、仕事を楽しむには、PPositive Emotion以外にも、他に4つの視点があると言えます。

E=Engagement 寝食を忘れるほど何かに打ち込み、熱中・集中できる仕事であること
R=Relationship 職場の人々との助け合いや元気をもらえる仕事であること
M=Meaning and Purpose 社会や顧客のお役立ちを実感して働ける仕事であること
A=Achievement 達成感が得られる仕事であること

冒頭ご紹介した経営トップは、PERMAで示されることを伝えたかったのだと思います。決して笑いや笑顔がたくさんある職場だけを求めているのではないでしょう。
私自身、仕事での楽しい経験を思い出すと、

・困難なプロジェクトを終えて、お客さんに喜んでもらえた。
・多様な人々と仕事をすることで、一生のお付き合いになる関係ができた。
・納期に間に合わせるべく企画を作って提案した企画が通った。
・業績を上げられず苦しい思いはしたが、メンバーの悩みにより共感できるようになり、関係性が深まった。

これらの経験には必ずしも、快楽が伴っているわけではありません。しかしながら、PERMAの各要素が満たされることで、一所懸命にエネルギーを持って仕事ができていたのだと思います。それこそが「仕事を楽しむ」が本質的に意味することなのではないでしょうか。

Q&A1:「私はどうしたら仕事を楽しむことができるのか分かりません」

仕事を楽しむためには

① 楽しいと思える仕事をする② 今の仕事を楽しく思えるように工夫する

の二つの方法があります。
自分が楽しいと感じる仕事ばかりできればいいのでしょうが、私の少ない経験では、それを実現するのは困難と思えます。そこで、今の仕事を変えずに楽しむことが必要となります。研修の講話の中でも、多くの経営トップは与えられた仕事を楽しんだ自らのさまざまな経験を語っています。

・昇格した時に、自分の部下を持つことができ、彼らが昇格できるように支援できたこと
・大きな予算を持って社会に良い影響を与えられる使命を感じながら仕事ができた
・結果や生産性を変えるために、仕事の進め方を提案し改善できたこと
・高い目標を設定して、それに向かって頑張り抜く時間を持てたこと 等

これらに共通しているのは、「自らが楽しんでいること」だと思います。そして、自分がどうすれば楽しいかを経験的に知っている人たちだということです。つまりエネルギーが出る素を理解しているのでしょう。
ポジティブ心理学では、その素のことを「資質上の強み」と言っています。
経営者の方々が経験的に実践していることは、理論的にも正しいこととされています。ポジティブ心理学の研究では、仕事で4つ以上の強みを定期的に使っている人は、生活の満足度が高く、鬱(うつ)症状になりにくいということが分かっています。仕事で自分の強みを表出すればするほど、仕事を単に生活の糧として捉えるのではなく、意味や意義あるものとして捉えることができます。つまり仕事を楽しむことが可能となるのです。

フローの研究で著名なM. チクセントミハイ博士も次のように主張しています。

「毎日の生活が素晴らしいものになるかどうかは、結局は、何をするかではなく、どのようにするかにかかっている。仕事がどれくらい人生の素晴らしさに貢献するかを決定するのは、外部の条件ではない。それはどのように働くか、仕事のチャレンジに立ち向かうことから、どんな体験を引き出すことができるかなのである。」

Q&A2:「私の資質上の強みが何か、どうしたら理解できますか?」

ポジティブ心理学では、強みを測定するツールがいくつか研究されています。その中でも代表的な診断ツールがVIA(バリュー・イン・アクション)診断です。
VIA資質上の強み24
これは、この分野を代表する研究者であるマーティン・セリグマン博士らが50名以上の協力者を集め、開発した診断ツールです。2003年に発表されて以来、世界中で何百万人もの人々に使われています。VIAでは資質上の強みを24個に分類しています。これは人種・国・民族・宗教・文化に関係なく人類に普遍的なものです。診断結果は、24項目すべてのランキングとして出されます。
(詳しい考え方や使い方はこちらをどうぞ)
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実践!VIAを使って自分にとっての仕事の楽しみ方を理解する

私の例を紹介しましょう。
サーベイをとった結果、私は、上位の強みが、「ユーモア」と「創造性」と「リーダーシップ」でした。確かに思い起こせば、大変だった仕事の時でも「お客様に喜んでもらう」「笑ってもらえること」「人とは違う創意工夫」「仲間と一緒に進める」等が実感できている時は、大変でしたが「楽しかった」記憶があります。
私は、それ以来、仕事をする際に「常に工夫をすること」「お客様に喜んでもらえていること」「仲間と一緒にできていること」を意識するようにしています。そうすると、トラブル処理でさえも心が軽くなることがあります。
つまり、自分の強みが分かれば今の仕事の楽しみ方のヒントが得られます。

研修の受講者にもいろいろな報告をしてくれる人がいます。

ある人は、「チームワーク」が強みだというある人は、一人で完結する業務でも仲間に声かけて時々相談するようなコミュニティーを作ってやったら仕事が面白くなり、改善が進んだそうです。売上目標の達成プレッシャーで疲れていたある人は、「愛情」「親切心」の強みをに基づき、『喜ぶお客様の数』を目標にした結果、「売上目標を達成できた!」と喜んでいました。「忍耐」の強みを生かせば、今掲げている高い目標を「自分らしさを発揮できる機会だ」と捉え直せることに気づき、気持ちが楽になったという人もいます。このように、「強み」をきっかけに仕事の楽しみ方を理解することでポジティブな気持ちになることができます。

まとめ:仕事を楽しむための3ステップ

「自分は仕事を楽しめている」と皆が自信を持って言える組織になるために、次の3ステップをお勧めします。

ステップ①自分の強みに目覚め Aware
ステップ②仕事に生かし Alliance
ステップ③他者の強みの発揮を認める Admire

これで、自ら仕事を楽しむことができ、周りの人が仕事を楽しめるようサポートすることも可能となります。

「仕事楽しんでいますか?」と聞かれたら「楽しんでいるよ」と答えられるように、まずはVIA診断で自分の強みに気づいてください。そして、ぜひ一緒に働くメンバーにも仕事の楽しみ方を伝えてください。

診断サイトはこちら(外部サイトへのリンクです)


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川本 芳裕
大学卒業後、株式会社ビジネスコンサルタントに営業として入社。営業所責任者を経てコンサルタント部門移籍。2013年フェロー役員就任。 専門領域は、イノベーション・マネジメント。組織レベル、事業レベル、商品レベルそれぞれのイノベーションを効果的に生み出すマネジメントを専門分野とする。現在は、コンサルタントとしての活動のほか、ビジネスコンサルタントの研究開発部門の責任者も兼ねる。