サスティナブル経営のための変革を成功させる秘訣を学ぶシリーズ第3回をお届けします。前回は、「断絶の変化」によって、経営の優先順位が変わってくる、そして断絶の変化を前に何もしないでも生き延びれる確率はたった5%しかないというお話をしてきました。

1.断絶の変化とは何か 
2.持続可能な経営のための優先順位づけとは
3.変革の成功率向上に外せない3つのこと! ←今回はこちら
4.ABCDで持続可能な未来への旅を始めよう!

断絶の変化を超えてきたマルモルス氏自身、それは簡単なことではなかったと振り返ります。それでも変革が成功するために最も大切なことは「社内の人、社外の関係者に共に変革のプロセスにコミットしてもらうこと」とし、そのための具体的なポイントを3つ紹介しています。

~本シリーズは、株式会社ビジネスコンサルタントが2017年12月に開催したWINセミナー「バックキャスティング経営を実現するリーダーシップ」に基づきお届けします。執筆・解説は、本サイトでもたびたび登場いただいている、一般社団法人サステナビリティ・ダイアログ代表理事、牧原ゆりえさんです。~

①成功のイメージを明確に定義して関係者に理解してもらう

プロセスにコミットしてもらうには、関わってほしい人に成功のイメージを明確に定義し、変革に取り組むことを理解してもらうことが大切です。マルモルス氏は、成功のイメージを明確に定義できたおかげで、熱意と自信を持って語りかけることができたと振り返ります。工場の閉鎖や従業員の解雇、サプライヤーの大幅な変更など、社会的な影響が大きい意思決定を下すときは、なぜ変革をするのか、自分の変革計画がなぜ正しいのかをCEOとして自信を持って話す必要がありました。そのよりどころが成功のイメージだったのです。

そのプロセスに耐えるために、将来の市場を動かす力を理解し、そこで生き残れるビジネスモデルを描くことがまず必要でした。断絶の変化の先にある未来なんて、事細かに描くことはできません。描いた未来をいますぐは達成できないどころか、どうやって達成するのか、見当もつかないこともあるかもしれません。それでも、今から予想できる範囲ではなく、「持続可能な社会」という、言ってみれば「カンペキな未来」でビジネスをすることをイメージするのです。

オーラライトも超寿命の蛍光灯が主力商品だった時代がありました。しかし持続可能な経営のために大切なことは、これまで投資が大きかった製品を守ることではありません。社会が変化の真っただ中にあっても、その社会の人が持続可能な社会で必要なソリューションを提供し続けられることこそ重要なのです。

②変革に対処するためのスキルセットを共有する

そんな成功のビジョンを作った次には、社内外の人と密にコミュニケーションをしていくために「共通言語」を取り入れて成功したと言います。背景や立場、専門が違う多くの人に変革にコミットしてもらうためには、分かり合うための「言語」を学ぶトレーニングを実施することが必要不可欠でした。マルモルス氏が主として取り入れた「共通言語」には4つあります。

1. 断絶の変化を超えて組織を変革していくために必要な要素を漏れなくカバーし、議論を混乱なく進めていくための枠組みである5レベル・フレームワークこちらの記事の後半で解説しています)
2. 「持続可能な社会」についての科学的に定義で、成功のビジョンが持続可能かどうかを判断するために利用できるよう一般化された4つの持続可能性原則。そして、現状からのシナリオ予測やベスト・プラクティスの積み上げではなく、原則と現状を比較して次の戦略を決めるというバックキャスティング
3. 自社の製品やサービスが、顧客が使用する段階だけでなく、資源の調達段階、製品の製造段階、輸送段階、廃棄段階の全てにわたって原則に照らして分析、イノベーションの種を見つける手法であるサスティナビリティ・ライフサイクル分析
4. 明確かつシンプルなエンゲージメントプロセスとしてのABCDプロセス(こちらについては次の記事で詳しく)

お分かりの通り、成功のイメージを明確にするときに力を発揮するのが2.の持続可能性原則とバックキャスティングです。成功の形は人それぞれですが、「持続可能な社会のためには、これだけはどんなことがあっても守ろう」と科学者らが合意した内容が4原則8項目にまとめられています

【持続可能性原則 4原則8項目】

4原則8項目イメージ

  1. 自然のなかで、地殻から掘り出した物質の濃度が増え続けることに加担しない
  2. 自然のなかで、人間社会が作り出した物質の濃度が増え続けることに加担しない
  3. 自然が物理的な方法で劣化することに加担しない
  4. 人びとが自らの基本的ニーズ(健康・影響力・能力・公平性・意味や意義を作ること)を満たそうとする行動が、構造的に害されない

今日サスティナビリティ・レポートを出していることと、組織が持続可能かということは関係がありません。今日の企業はなんらかの形で持続可能でないか、持続可能でない状況に加担してしまうかしています。常に持続可能性原則と現在を比較し(バックキャスティング)、足りない分を埋めるための計画を立て、実行し、進捗を測り、またその時点から成功に向けて計画を立てて、という繰り返しで達成していくものなのです。断絶の変化の時代ですから、使える技術やノウハウは常にアップデートされていきます。1年前に最も効果的で効率的だと思って選んだアクションプランは、今年分析すると違った結果になることもあるのです。現状のビジネスの形がこれに違反しているなら、それをなくすためのアクションを、これからの取り組みは持続可能性原則に加担しない形のアクションを組織の合言葉にします。

(バックキャスティングについては、こちらふたつの記事で詳しく解説しています!「バックキャスティング経営の始め方①」)

③信頼をベースに、人々に関わること

マルモルス氏の第一印象は「相手に敬意を払う方」でした。私自身がそう扱われたからです。
なので、マルモルス氏が「全従業員の協力が必要なので、全従業員にトレーニングを受けてもらいました。カフェの清掃スタッフも例外ではありませんでした」と言ったとき、ああそうだろうなと思いました。従業員の方と話がうまく合わないときは、社内のイベントに家族で参加をして、一人の人間として付き合ってもらえるところから始めたと言います。
毎週のように顧客、金融機関や工場を訪問し、事実をありのまま話す。変革のプロセスにできるだけ多くの人をグイグイ「巻き込む」のではなく、出向いて理解を求め、結果として協力を得るスタイルは、特に最初の段階で時間がかかります。

マルモルス氏は暇だったのでしょうか。

もちろん違います。
人と人との信頼関係が大切だと言う考えを信じ、ひたすら行動で示しているのです。

困難な状況下でも、それは変わりませんでした。成功のイメージに向かってまい進するために避けて通れないのが、既存ビジネスの縮小ややり方の変更による工場の閉鎖とそれに伴う解雇通告です。首を切る、人を切る。自分が当事者になったら、聞く側も、その言葉を発する側にとってもなんとも残酷な言葉です。マルモルス氏も工場の閉鎖を多く経験しています。その話から聞こえてくるのは、「通告」ではなく「危機感の共有と、その人の立場にたった提案」と粘り強さです。

例を挙げてみます。
ある工場を閉鎖することを決めたとき、マルモルス氏は工場で働く従業員の方に「なぜ工場を閉鎖しなくてはならないのか」を説明し、理解を呼びかけました。当時オーラライト社は、エクイティ・ファンドへの株式売却による資金調達を当て込んでいましたが、それが失敗し、会社存続の危機にあったのです。マルモルス氏は従業員に対し、「何か過ちをしたわけでもない、優秀な従業員に対してこのような話をすることをとても残念に思っている。それでもあなたたちが40年勤め上げてきた会社を存続させたいと願っている」ことを懇切に伝えました。それが彼らに伝わったからでしょうか。工場の閉鎖を決めてから実際に閉鎖されるまでの6カ月間、ストライキや製品の品質低下がなかったと言います。

迅速に変化する組織風土を作るのに効果的だったことをお尋ねすると、「うまくできなかったとき、あーマルモルスさんに悪いことをした!次は頑張るぞ。と思ってもらえる信頼関係を作ること。規則やルールは全然いらない。」信頼関係は、断絶の変化を乗り切るための「成功のイメージ」やスキルセットが効果を発揮する上でとても大切なことかもしれません。

いかがでしたか。マルモルス氏が持続可能な成功のイメージに向かってオーラライト社を変革したプロセスから学ぶことがたくさんありますね。
次回は持続可能な経営をリードするために、リーダー必須のツール「ABCDプロセス」をご紹介します。

どうぞお楽しみに!


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牧原 ゆりえ

一般社団法人サステナビリティ・ダイアログ代表理事/Art of Hosting Japan 世話人

国際基督教大学を卒業後、大手監査法人に公認会計士として勤務。出産を機にサステナビリティに強い関心を持つようになり、家族とともにスウェーデンで4年に渡り生活。持続可能な社会のための戦略的なリーダーシップ等2つの修士課程で学ぶ。留学中に出会った北欧発の参加型リーダーシップトレーニングArt of Hosting、グラフィック・ファシリテーションを軸に、スウェーデンのサステナビリティ戦略フレームワークを伝えるための活動を展開。