「働き方改革」への取り組みに待ったなしの今、学習や育成のための時間をどう作り出すか、短い時間でも成果につながるやり方はないものか、人材開発の担当者や現場のマネージャーは悩まれていることと思います。人材開発の世界最大のカンファレンス、ATD2017年の注目キーワード「マイクロラーニング」が一つのヒントを与えてくれそうです。(ATD、及びマイクロラーニングについてはこちらの記事をご参照ください。)

「マイクロラーニング」、日本ではまだなじみの薄い言葉ですが、アメリカではかなり普及が進んでいます。ATDのセッションでは「営業研修」や「リーダーシップ研修」といった成功事例が複数紹介されていました。これらの取り組みからは、「テクノロジー×コミュニティ」を意識した、学習者の経験のデザインの重要性が浮かび上がってきました

マイクロラーニングがつなげる営業現場とスキル学習

あるセッションで紹介されたプログラムでは、コンサルティング営業のスキルを身につけるために営業活動のシーンを6つに分けていました。

1.顧客のリサーチ
2.よい質問の仕方
3.傾聴の仕方
4.自社製品を紹介する
5.機会を特定する
6.クロージング 

そして、それぞれのシーン別にマイクロラーニングのコンテンツを展開しています。その形式は、ブログやインフォグラフィック、ビデオなどの学習コンテンツと、学習した内容を行動につなげる応用演習です。具体的にはこのようなイメージです。

顧客のリサーチ

よい質問の仕方

傾聴の仕方

ソリューション営業をマイクロラーニング化することで、忙しい中でも本人がしたい時に学習でき、行動を促すきっかけまで提供できるように工夫されています。

成功の秘訣はソーシャルラーニング

しかし、これだけで本当に営業の成果が上がるのか疑問ではないでしょうか?実は、これを成功させることができた理由はその他の仕掛けでした。それは、「ソーシャルラーニング」という現場で学びあう仕組みです。

ソーシャルラーニングは数年前からATDでは話題になっている学習のあり方です。その前提にあるのは「コミュニティー」です。コミュニティーというのは、ラテン語が語源で“他の人と何かをする”場所を示すものでした。今では、「互恵性」「利他的」などの意味も含まれるようです。これがどのように学びに関係するのでしょうか。

学びとは社会的な行動

ハーバード大学のリチャード・J・ライトは学びに関する興味深い研究をしています。
高等教育において学生が学びに成功する最大の要因について研究したところ、それは教授の教授法ではなく、学生たちの知能指数でもなかったそうです。重要なのは、小さな学習グループに参加したり、そのグループを作ったりする能力でした。学習グループに参加していた人たちは、そうでない人に比べて、たとえそれが1週間に1回であったとしてもひとりで勉強した人より多くを学んでいたそうです。

学びは、基本的にひとりでするものではなく、社交的な行動だということが発見されたのです。今までの学校教育で、「私語は慎むように」と言われたのは何だったのかと思ってしまいます…。

お互いの信頼のもとに、お互いから学びあう場所、教える側と教えられる側の境界があいまい…。ATDではそんな学びのコミュニティーによる学習こそが、個人だけでなく組織としての学びを加速する良い方法であると紹介されています。

確かに、何かを学ぶときには同じような環境にある人から話を聞きたいと思うものですよね。今はSNSやソーシャルメディアによって、遠隔にいる人とも学びのコラボレーションができる時代になっているのです。このようにSNSやブログなどソーシャルメディアを使った学びのコミュニティーを作ることを「ソーシャルラーニング」と言います

 経験学習を加速する仕掛け

上述の説明で納得頂けると思いますが、さきほど例に挙げたソリューション営業のマイクロラーニングは、「マイクロラーニングを導入したから営業のスキル向上が成功した」わけではありません。成功の鍵となったのは、「ソーシャルラーニング」の仕組みを併用したことだったのです。

自分の興味があるカテゴリーに関して、マイクロラーニングで用意されているコンテンツで学習し、応用演習として学習した内容を実践してみます。その後、ソーシャルラーニングの場として社内ブログを用意していました。そこでは、このようなやり取りがなされたそうです。

・コンテンツを読んで理解しきれなかったことを聞いたり教えたりする
⇒なんとなく分かったような気になることが防げます

・実際に実践してみてうまくいったことや、できなかったことの共有
⇒お互いにアドバイスしあうことができ、行動を起こす前にコツを共有できます。 

・コンテンツで学んだこと以外の工夫のシェア
⇒パフォーマンスを上げるためのアイディアの創造

ロミンガー社の702010(経験:薫陶:教育)という個人の学びに関するモデルは有名ですが、ソーシャルラーニングを加えることで、70の経験からの学びを強力にサポートし、経験学習を促進することに成功したのです。

「働き方改革」や労働人口の減少などによって、「OJTに時間が割けない」、「OJTできる人がいない」といった問題が日本企業の現場で起こっています。今回ATDで紹介されたマイクロラーニングやソーシャルラーニングは、そうした問題の克服をもたらすツールになるのではないか。それらを有効に機能させることができれば、学びの文化を組織に根付かせられるのではないか。そんなことを考えさせられるきっかけになりました。

【アトランタ風景】
アトランタが本拠地の有名企業のひとつ、コカ・コーラ社

コカ・コーラ本社

ビルの中に大きなボトルがあります

CNNもアトランタが本社です。

筆者が訪問した際も、オフィスツアーが実施されていました。


ATD2017
1.世界最大人材開発カンファレンス今年のキーワード
2.テクノロジー×コミュニティで学びの文化を醸成する


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廣瀬 沙織
東京工業大学大学院 社会理工学研究科 修士課程修了/ 一般社団法人日本ポジティブ心理学協会 理事。 株式会社ビジネスコンサルタントにて営業マネジャー職を担当。その後、同社における顧客組織の組織開発と人材開発への投資効果と投資効率を最大限に高めるための会員制サービスの商品戦略を担当。現在は同社の研究開発マネジャーとして、サステナブル社会の実現のため、ポジティブ心理学やイノベーション理論、自然科学ベースの戦略策定フレームワークに基づく商品開発およびその実践を担当。