私たちの会社では一つ、サスティナビリティの観点から見直しをした資源があります。それは、紙です。研修会を毎日全国各地でお手伝いする私たちの会社で、紙は大量に消費している資源の筆頭です。その数、A4・A3用紙だけで年間756万枚分超。ほかにも冊子形式の資料や模造紙など、さまざまな紙製品を使用していますから、相当な量と金額です。

これまで弊社では、再生紙含有率70%の紙を使用したり、一部を竹紙(※竹から作られる紙で、里山の自然環境保護に役立つ)に置き換えたりしてきました。また、新たな仕組みとルールを導入して、そもそも資料の無駄をなくすといったことにも取り組んでいます。しかし、

・再生紙は作る工程で大量の水を必要とし、CO2の排出量も多い。
・竹紙は供給量が一定でない。在庫がなくなると都度注文して生産してもらう必要があり、今後も継続的に入手し続けられる保証がない。

ということでいずれも原料の調達過程に問題があり、サスティナブルではないと判断するに至りました。そこで目を付けたのが、「FSC認証」された紙を使う、という選択肢だったのです。

プリントボーイの皆さま

株式会社プリントボーイの皆様。お伺いした認証取得の経緯は次回詳しくご紹介します。

とはいえ、実は私たちは自社ではテキストの印刷を行っていません。FSC認証の付いたテキストをお客様に提供するためには、印刷を依頼している株式会社プリントボーイ様に認証を取得いただく必要がありました。同社が、弊社からの申し出を前向きに検討し、認証取得に動き出してくださったのが2016年春。そして1年以上の取得準備を経て、2017年6月より、FSC認証紙の使用がスタートしました。今回からFSC森林認証の価値や認証取得について2回にわたりご案内します。

世界の大手企業や公的行事ではFSC認証製品を使うのが常識

このFSC認証、すでに私たちの生活の身近なところで使われています。スターバックスコーヒーの紙カップや紙バッグ、花王の一部製品パッケージ、王子グループ「ネピア」ブランドのティッシュやトイレットペーパーなど、大手企業が続々採用中です。世界ではオバマ前米国大統領の就任式典招待状、ロンドンオリンピックの一部建物建材、ファストファッションのH&Mではスニーカーのソールのゴムなど、FSC認証の製品がさまざまなところで使われています。

でもこの認証がどのような価値を持ったものなのかまで詳しくご存じの方はもしかして少ないのではないでしょうか。私も「なんとなくエコなもの」という程度にしか受け止めていませんでした。FSCの設立の経緯や認証制度の原則を知ると、「環境に良い」というだけではないその価値の意味深さが見えてきます。

FSC®ジャパン(NPO法人 日本森林管理協議会)の事務局岩瀬さん、広報担当の河野さんにお話を伺いました。

FSC商標使用

FSC認証マーク】こちらは商標利用のためのマークです。実際の認証取得製品では一部の記載が異なります。

FSCとは?大事な3つの視点

FSCForest Stewardship Council® 森林管理協議会)は、1993年に、環境NGO、企業、コミュニティの首長らが集まって、世界の森林管理の在り方を向上するために設立された非営利組織です。経済・環境・社会本部はドイツのボンにあり、世界80カ国に活動を広げています。FSCの目的は、「環境保全の点から見て適切で、社会的な利益にかない、経済的にも持続可能な森林管理を世界に普及させること」。ちょっと長くて分かりにくいかもしれませんが、「環境」「社会」「経済」の3本柱を掲げているということです。

【環境】
森林破壊の防止。特に自然林を残し、人工林でも多種多様な生き物が生息できる環境をつくることを重視しています。今、自然林の減少は3.5秒にサッカー場1面分というすごいスピードで進んでいます。それによって、森林による炭素固定が低下し、生物多様性が失われています。

【社会】
・森林で働く人たちの安全や労働者としての権利が守られているか。
・先住民族の権利が守られているか。
森林にはそこに住み、森林に生活基盤を依存している先住民族がいます。国連では、代々その地に暮らす先住民族が森の資源を使用する権利を認めています。にもかかわらず、森林伐採を行う企業が土地の所有権を主張して、先住民族を強制的に退去させるといった事象が発生しています。森という生活基盤を奪われた人々はたとえ補償金を渡されたとしても、何のスキルも教育も無しに急に都市生活に順応することはできません。貨幣経済において生活の糧を得ることは困難です。「てっとり早く稼ぐ」手段として、密漁や少女の売春といった問題につながってしまうこともあるそうです。
・地域社会と良好な関係を保っているか。
例えば、森林から切り出した木材を運搬する道路の騒音被害に配慮しているか、森の中の社会的に重要な箇所を守っているか(宗教儀礼の場所など)といったこと。

【経済】
持続可能な経済性のある森林経営をしているか。森林は成長する資源です。木を切り出しても、新たに植えれば資源量を維持できます。しかし、当たり前ですが成長する量以上に切ってしまうと持続可能性が無くなります。適切な森林管理を計画的に行い、チェックをする必要があります。

この3つの視点に基づく、10原則70基準でFSC森林認証の審査は行われます(※この原則の適用は2018からで、現在は10原則56基準です)。

FSC10原則70基準

クリックすると、パンフレットの全文をご覧いただけますhttps://jp.fsc.org/preview.fsc5.a-386.pdf

企業にとってFSCは転ばぬ先の杖

上述の【社会】の面でご紹介した先住民族の権利が奪われている問題は、一見すると日本の私たちには無関係にも思えます。しかし、日本で消費される木材の60%は輸入に依存しており(特に紙の原料のパルプとなると95%以上が輸入です)、そのうち20%は違法伐採と言われているそうです。つまり、今まで私は無自覚に「出所の分からない」木材や紙を使ってきましたが、それによって先住民族の権利侵害に加担していたかもしれない、ということなのです。ここまでの話であれば個人の倫理観の問題かもしれませんが、これが企業レベルの調達の問題になってきたらどうでしょうか?
冒頭ご紹介したように、欧米の一流企業でFSC森林認証が調達の基準として積極的に採用されているのには、こうした背景があります。ただ資源を守る・無駄遣いをしないだけではなく、社会面や経済面までを考慮した「責任調達」という考え方が広まっています。森から流通の経路まで、すべてがしっかり管理されているFSC森林認証は、「知らないうちに環境破壊や人権侵害に加担する」リスク回避の手段と捉えられています。

木を使って森を守る!FSCに学ぶサスティナビリティの意味

FSC森林認証の10原則をよく理解すると、今までの「木を使わないことで森を守る」とは全く異なる資源管理方法であることに気づかされます。人間は古くから森と深い関係を持ち、社会や文化を発展させてきました。そして森は再生可能な資源であり、適切な管理・活用がなされるなら、森の豊かさも人びとの豊かさも両立が可能です。FSC10原則はそうした考え方に基づいたものと言えると思います。実際、FSC認証林の中には先住民族を雇用して木材の伐採や管理を行うなど、森林の活用・管理と社会・経済的な利益とを両立させているケースもあるそうです。

FSCの価値についてお聞きすることで、サスティナビリティとは、環境に負荷を与えないということだけではなく、同時に他者の生活基盤や文化を奪わない、というところにまで解釈を広げる必要性があることを再認識しました。そのことが分かれば、組織のみんなでサスティナブル経営に取り組むことへの意義ももっと感じやすくなるのではと思います。


日本や世界でなぜ環境問題が解決されないのか、サスティナビリティのために何をすべきか、さらに詳しくお知りになりたい方へ
旭硝子財団旭硝子財団の活動

山田有佳
京都大学総合人間学部、同大学院人間・環境学研究科修士課程修了。専攻は文化人類学、クロアチアで戦災からの街の復興をテーマにフィールドワークを行う。 株式会社ビジネスコンサルタント入社後、企画営業、営業マネジャーを11年。現在はサスティナブル経営を目指す企業やそこで働く人たちに向けた情報発信や能力開発プログラムの開発を担当。サスティナブルな選択をするビジネスパーソンが一人でも増えることを目指している。