2019年8月28日~30日、今年で7回目になる、TICAD(アフリカ開発会議)が横浜で開催されました。私たちは、その公式サイドイベントの一つ、国連WFPが開催する「日本企業とつくるアフリカの未来- デジタル時代の農村経済と持続可能な農業 -」に参加してきました。
多くの登壇者の中で、やはり私が印象付けられたのは、国連WFP事務局長のデイビッド・ビーズリー氏による基調講演です。

国連WFP事務局長
デイビッド・ビーズリー氏

登壇するなりビーズリー氏は、右手を指折りながら「one, two, three, four, five…one, two, theree, four, five」とカウントします。「なんだろう?」と思うと、

「今、子どもが一人死にました」

と話しだしました。世界では、飢餓のために、5秒に1人の子どもが死んでいます。一瞬、冷たい空気に会場が包まれたのち、ビーズリー氏はエネルギッシュに語り始めました。
短い時間にたくさんのメッセージが凝縮されており、かつ今回はTICADということでアフリカへの言及も多かったのですが、私がここでご紹介したいと思うのは次の2点。

・人道支援に関わる国連WFPの仕事は、幸せでやりがいのあるものだろうといわれる。でもこの仕事の現実とは、「この子は食べさせよう、だから生きられる。この子には食べさせられない、たとえ死んでしまうとしても」を日々選別すること。国連WFPの活動資金は十分ではない。過去250年にわたり減り続けて生きた世界の飢餓人口が、増加の傾向を見せている。その原因は、紛争と気候変動にある。

・国連WFPはテクノロジー活用を積極的に進めている。例えば、生体認証技術やチャージ式の電子マネーカードを活用すると、 受益者は自ら商店で食べ物を買うことができ、 食料を運ばずとも支援が可能になり、地域への経済的な波及効果も大きい。こうした新しい技術の実用化、より効率的で効果的な支援の実現に一層力を入れていく。そこで、国連WFPはもっと民間セクターと協働していかなければならないと考えている。日本からのこれまでの協力にとても感謝しているし、今後のより一層の関りを期待している。

国連機関による人道支援活動というと、専門家が大勢いて民間企業の出る幕ではないのでは、と思いがちです。今回のイベントでは、日本電気株式会社、豊田通商株式会社、日本植物燃料株式会社といった民間企業で、実際にアフリカでビジネスを展開している方々が登壇し、「CSRとしてではなく、ビジネスとして取り組んでいます」ということを強調されていました。

アフリカでビジネスを始めましょう!とまでは難しくても、日本の私たちはどのような形で国連WFPの活動に関わることができるのでしょうか。認定NPO法人国連WFP協会の森さんと渡邊さんに教えて頂きました。

認定NPO法人国連WFP協会とは、組織と役割

実は今回、私たちが国連WFPの取り組みから学びたい、と思ったのは、渡邊さんから弊社にご連絡をいただいたことがきっかけでした。

認定NPO法人国連WFP協会
事業部 渡邊友紀子さん

渡邊さんが所属する認定NPO法人国連WFP協会(特定非営利活動法人 国際連合世界食糧計画WFP協会)とは、国連WFPの日本における公式支援窓口で、国連WFPへの民間からの募金活動、企業・団体との協力関係の推進、広報を行う組織です。渡邊さんの現在のミッションは、より多くの日本企業からの国連WFPへの支援を募っていくこと。法人担当として、企業のトップやCSR責任者にどんどんアポイントメントを取り、国連WFPの活動をアピールし、支援への参加を呼び掛けています。各社ごとにCSRの方針や取り組みのスタンスの違いを感じることが多いということですが、寄付という形に限らず、ビジネスの力で世界を変えられる、ということを強くメッセージされています。

食品関連企業に限らず参可能可、レッドカップキャンペーン

「レッドカップキャンペーンは、企業さんにとっては取り組みやすく、かつ効果の大きい枠組みではないかと思います。企業さんとして、新たな製品を開発しなくても、現在ある商品にマークを載せて頂くだけでよい仕組みです。そして消費者の方々の中には、寄付や食料支援に関心はあっても何をしたらよいのかわからないという方も多いです。そういう方々に、身近な選択肢を提供することになります。」(渡邊さん)

レッドカップキャンペーンの対象製品

こちらの記事(第1回目のURLを記載)でもご紹介をした、「レッドカップキャンペーン」。これは、食品関連企業に限定されるものではありません。対象商品には、消火器やPC用品も含まれるそうです。商品の売上金の一部が学校給食支援への寄付となる仕組みです。 (現在、国連WFP協会では参加企業様を募集中です https://www.jawfp.org/redcup/company/

NPO法人国連WFP協会の評議員とは

上記以外にも、さまざまな寄付のフレームがあります。その一つが、「国連WFP協会の評議員になる」というもの。評議員になると、国連WFPの活動について最新情報も定期的に送ってもらえるということです。「ビジネスの力で社会課題解決を、そして新規事業に」と考えアクションするなら、やはり鮮度のある、確かな情報に触れることは重要ですから、寄付をする側にも価値があると私は感じました。こういった仕組みについては、国連WFPのこちらのページで紹介されています。

国連WFPの取り組みを知り、関わることへの、ビジネスサイドのメリット

私たちは、日ごろ組織の人材育成を支援する立場のため、「こういう取り組みは、ビジネスパーソンにとって、どう有益か?」という視点でもよく考えています。国連WFPのような専門的な機関の活動を知ることは、敷居が高いと感じる方も少なくないとは思いますが、新規事業のアイデアを着想するのには、とても貴重な機会になると感じました。

多くの企業から参加者が集まるイベント、
ウォークザワールド

例えば、国連WFP協会の寄付のフレームには、「コーポレート・プログラム」というものがあります。それなりに財務的な体力のある企業でなければ難しい寄付金額ではありますが、プログラム参加企業には、支援現場を視察する機会があるそうです。現在はCSR担当者が参加、自分たちの寄付が使われる現場を見ることで、寄付の意義を再認識し、継続するモチベーションになっているそうです。もし、ビジネスの将来を考える立場の人やテクノロジーに精通した人が、支援のプロが活動する現場を見たら、どんなことに気付けるでしょうか?自分たちのノウハウやテクノロジーが、社会課題の解決にどう活かしうるかを考える機会になるのではないでしょうか。


学校給食支援を事例に、サスティナブル経営に欠かせないシステム思考のご紹介から始まったこのシリーズ。世界の飢餓の現状、国連WFPの支援活動の内容や、新たな取り組みについてご紹介してきました。それでもまだ、「飢餓は遠い国の問題」と感じる方もいらっしゃると思います。そこで、一つのデータをご紹介します。

643万トン

これは、日本の年間の食品ロスの総量です。一方で、国連WFPによる食料支援は年間390万トン(2018年)。世界では、すでに全人類を養うだけの食料が生産されています。不均衡な分配のために、飢餓ゼロが実現されないでいます。

私ができること、家族や仲間とできること、会社としてできること、始めてみませんか。

第1回 SDGs実践事例:「食べられる」が平和をもたらす!国連WFPの学校給食支援をシステム思考で分析&解説
第2回 国連WFPに学ぶ、DXによる社会課題解決:テクノロジー活用成功のカギは深い現場理解
第3回 SDGs実践・浸透に向けて:ビジネスは世界の課題解決とどうつながれる?国連WFPのケース


一市民として、組織として、サスティナブルな未来づくりのためにどんなアクションが起こせるのか。ヒント満載のeラーニングをご紹介しています。

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