この数年で働き方が変わり、出社する頻度や目的、出社してやりたいことなどが変わってきたとお感じの方も多いと思います。このような変化を受けて、オフィス環境はどうあるべきか?今までと同じままで良いのだろうか?ということが問い直されるようになってきました。私たちのウェルビーイングが高まり、より充実した働き方が実現するオフィス環境は、どのようにしたら実現できるのでしょうか?そのヒントを得たいと思い、NAMITOKAZE代表の山川氏をお招きし、「ウェルビーイングを感じるオフィス環境のつくり方」をテーマとするワークショップを開催しました(※)。この記事では、オフィスづくりのプロではない、リーダーや働く人たちが参画して、自分たちのためのありたいオフィス環境を考えるためには、どのような視点やプロセスで進めたらよいのかご紹介します。
※㈱ビジネスコンサルタントが運営するWell-being共創ラボのイベント、「第3回Well-being共創会」(2023年8月2日開催)にて実施
これまでのオフィスでは自分らしくいられない!?
山川さんは、オフィスづくりに携わられて20年。現在は、デジタルファブリケーションを活用した建築・空間づくりに取り組むVUILDに所属しながら、NAMITOKAZE代表として、オフィスづくりのプロセスを変えるためのワークショップを数多く実施されています。
山川さんは「オフィスに来ると、普段とは違う、仕事用の自分でいないといけない」と多くの人が感じていること、山川さんの言葉では「全体性が失われがち」であることに違和感を覚え、誰もがその人らしくいながら力を発揮できる空間づくりを大切にされています。そのために、オフィスづくりのプロセスを分解し、社員参加型を実現するワークショップというプロセスを編み出されたのだそうです。
ウェルビーイングなオフィスとは?
まず初めに山川さんから問いかけられたのは、「ウェルビーイングなオフィスと聞いてどのようなイメージを持ちますか?」ということ。皆さんはどうですか?例えば
・植物がたくさんある
・空気が心地良い
・バランスボールが置いてある
・照明が快適
といったような物理的な要素が、最初に出てくるかもしれません。
もう少し一般的なところでは、機能的でモチベーションの高まるオフィスづくりの基本にABW(Activity Based Work)という考え方があります。また、WELL認証といった、客観的に建築物のウェルビーイング度合いを測る指標もあります。
ウェルビーイングを感じるオフィスを作りたければ、出発点を変えることが大事
上記のような物理的な条件はもちろん重要ですし、山川さんがこれまで携われたオフィスや店舗空間には、木材などの自然素材が多用され、居心地の良さを感じます。でも、ウェルビーイングの主観的な側面を踏まえれば、どんな環境、どんな働き方がウェルビーイングなのかは、組織で大切にしている価値観、どのようなビジネスでどのような業務がなされているかによって異なってしかるべきなのです。そこで山川さんがいちばん大事にされているのは、「オフィスで何が起こってほしいのか?」を出発点に考えるということです。それは例えば、
・仕事や組織への愚痴ではなく、お客様のことがたくさん会話されている
・ヒエラルキーではなくフラットなコミュニケーションが起こっている
・お客様との交流が起こっている
・自己研鑽に多くの人が取り組めている
・部門をこえたコラボレーションが生まれている
といったことです。
山川さんは、この「オフィスで起こってほしいこと」を数多く導き出すため、様々な組織のハイパフォーマーにインタビューを実施。業績の良いチームや組織の特徴を聞いたところ、ビジネスや組織規模の違いに関わらず、共通する要素が多いことが明らかになりました。
オフィスづくりの出発点にはふさわしくない3つの観点
山川さんによると、従来のオフィスづくりでは次のような3つの観点が、出発点とされることが多かったそうです。
・会社のミッション・ビジョンなど
・収容人数、必要な会議室の数、といったスペック
・狭義のデザイン(北欧風、西海岸風、など)
ミッション・ビジョンを押さえることはもちろん重要です。なぜならこれらには、組織として大切にしたい価値観や行動が強く反映されるからです。しかしながら、多くの場合は抽象化された表現が用いられており、ここからデザインを発想することは難しいのだそうです。
スペックは必ず考慮に入れるものですが、スペックからデザインを考えると具体的過ぎて、その会社らしさが表現されにくい、といった問題があります。
狭義のデザインとはいわば見た目のことで、「北欧風」「東海岸風」といったデザインのテイストを意味しています。踏襲することでそれらしい空間にはなりますが必然性が感じられません。
いずれの場合も、社員の人たちは完成したオフィスを見て、「なぜこのような空間になったのか?」と疑問を感じてしまいます。愛着が感じられない、与えられたものをただ使うだけ、という社員が多くなり、これまでと社員の行動が変わらない、新しいアイデアも生み出されない、という帰結になりがちです。
ですから、できれば多くの人を巻き込んで、新しいオフィスで自分たちはどのような行動・コミュニケーションを起こしていきたいのかを考えることが重要です。
ウェルビーイングを感じるオフィスづくりのために考えたい、二つの切り口
今回紹介されたオフィスづくりのワークショップには、二つの切り口があります。
①新しいオフィスで起きてほしい行動・コミュニケーションを考える
②それを起こすための機能や仕組みやデザインを考える
山川さんは、多くの人が参画しやすいように、①や②を考えるのを助けてくれるカードも開発されています。①新しいオフィスで起きてほしい行動・コミュニケーションについては、先述したとおり優秀なマネージャーへのインタビューを実施。そこで得られたデータや、著名なマネジメントの専門書を参考に作った、130枚のカードがあります。②を考えるヒントとなるカードには、これまでのワークショップで出されたアイデアや、空間デザインの専門家の知見が反映されています。
そもそも、「どういったオフィスが良いですか?」と聞かれたとしても、ほとんどの人にとってうまく答えるのは難しいものです。人は見たことがあるもの・知っていることしか話せません。素敵なオフィスの写真を見て、「こんなオフィスがいいです」と答えがちです。また、日ごろの不満の裏返しの意見も多くなりがちです。山川さんによると、ウェルビーイングにつながるオフィスづくりに必要なのは、それとは違う情報。「新しいオフィスでどのようなことが起きてほしいか?」についての、共通認識です。
後半の記事では、ワークショップの進め方や、参加してみての感想をご紹介します。
組織のウェルビーイング向上のために、どんな施策から取り組むべき?課題解決のご相談をお受けしております。まずは情報収集からでも。お気軽にご連絡ください。
京都大学総合人間学部、同大学院人間・環境学研究科修士課程修了。専攻は文化人類学、クロアチアで戦災からの街の復興をテーマにフィールドワークを行う。
株式会社ビジネスコンサルタント入社後、企画営業・営業マネジャーを担当。現在は同社の研究開発部門で、環境と社会の両面でサステナブルな組織づくりにつなげるための情報収集やプログラム開発等に取り組んでいる。Good Business Good Peopleの中の人。