私たちが社内で企画・実施したサステナビリティをテーマにした視察ツアーをご紹介するシリーズ、3回目をお届けします。
視察2日目午前は、認定特定NPO環境パートナーシップ岩手さんにセミナーを実施いただきました。環境パートナーシップ岩手は、2002年設立、岩手県内で環境教育・啓発イベントを実施・支援したり、様々な勉強会を開いたり、東日本大震災の被災地での環境回復やコミュニティ活性化の支援をするなど、幅広い活動をされています。
環境パートナーシップ岩手と私たちとのご縁のきっかけは、事務局長の櫻井さんがこのサイトをご覧になってくださっていたこと。そして、代表理事野澤さんにお話を伺えたことが、小岩井農場で学ばせてほしい!とツアーを企画する直接のきっかけになりました。
今回アレンジしてくださったセミナータイトルは『心地よく、豊かに生き残るために』というもの。地球1個分の資源、環境で私たちがこれからも暮らすため、どんなアクションをすべきか?どんな思考態度を持つべきか?をインスパイアされるものでした。
認定特定NPO環境パートナーシップ岩手の取り組み
まず最初は、事務局長の櫻井さんから、NPOの活動内容についてご紹介いただきました。
そのひとつ「アイーナ夜学」では、環境に通じるテーマで市民の方々が集まり、勉強会を継続されているとのこと。例えば原発問題についても、話し合うだけではなく、実際に施設を見学に行かれるなど、他人ごとにしない学びをされていることに驚かされました。
また、東日本大震災の被災地支援の一環として、「着物リメイクファッションショー」というイベントを年1回開催されています。これは、使わない着物をドレスや日常着にリメイクし、作り手自身がモデルとなって行われるファッションショーです。自然環境の問題だけではなく、コミュニティの再生にも関わろうというNPOの姿勢を感じました。
小岩井農場の取り組みの意義を再確認
次に、代表理事野澤日出夫さんにお話をいただきました。野澤さんは、小岩井農場に獣医師として入社し、50年以上にわたり、育種改良、飼育環境の整備、業務の機械化や改善、農場経営の健全化に尽力されてきた方です。
野澤さんは冒頭、SDGsの視点で小岩井農場の取り組みを紹介してくださり、1日目の私たちの学びがさらに広がりました。
それから、様々なデータをもとに、日本の環境問題・対策の遅れの実態、気候変動のインパクトについて解説してくださいます。
パリ協定の内容と気候変動のインパクトをおさらい
野澤さんはレクチャーのなかで、「ちゃんと知らなかった!」と思わされる気候変動やエネルギー施策に関連するデータをいくつも提示してくださいました。ここではそのごく一部をご紹介します。
2015年に採択されたパリ協定とは
世界の平均気温上昇を産業革命以前に比べて2℃より十分低く保ち、1.5℃に抑える努力をする
経済産業省資源エネルギー庁HPより
そのため、できるかぎり早く世界の温室効果ガス排出量をピークアウトし、21世紀後半には、温室効果ガス排出量と(森林などによる)吸収量のバランスをとる
https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/tokushu/ondankashoene/pariskyotei.html
ここで指標になっているのは地球の平均気温上昇です。地球の平均気温がどのように変動しているかは、気象庁のHP、全国地球温暖化防止活動推進センターのHPなどで見ることができます。
地球の気温、私の住む町の気温はどれだけ変化している?
世界の平均気温は、産業革命前と比較して、すでに0.85度上昇しています。
では、岩手の平均気温の上昇はどうなっているか?というと・・・
実はすでに2.3度の上昇。寒冷地(緯度の高い地域)ほど、温暖化の影響が大きいのだそうです。
ぜひ皆さんも、ご自分のお住まいの地域の平均気温の変化をお調べになってみてください。ちなみに私は京都市に住んでいますが、市のHPで見たころ、すでに過去100年で平均気温は2℃上昇しているそうです。そして気候変動対策を何もしないと、21世紀末までに4℃上昇というシナリオも示されていました。
化石燃料が地域の豊かさを奪う!?
パリ協定では、温室効果ガスの排出をなくすため、すべての国が化石燃料に頼らない、脱炭素社会を目指す仕組みを作ることを、各国に求めています。
野澤さんはこの点でも様々なデータを見せてくださいました。例えば、
【盛岡市のエネルギー支出額】
約512億円
1世帯当たりのエネルギー支出額は年間約40万円×約128,000世帯
【盛岡市の一般会計年度予算額】
約1100億円
これらの数字をどう見ればよいのでしょうか。
エネルギー支出は、現在の日本における再生可能エネルギーの普及状況を踏まえると、大部分が化石燃料由来です。盛岡市では、市の一般会計の半額に匹敵する金額が、中東などに支払われ、地域には還元されません。地域の富が、地域外に流出しています。
でも、再生可能エネルギーを地域で作り、省エネを実行したらどうでしょうか。
太陽熱や小水力による発電、地域で産出される木材を使用するバイオマス発電などは、地域内の資源を活用したエネルギーで、そのための支出は地域で回るお金になります。
また、盛岡市では、高断熱住宅の普及率はまだ低いのだそうです。住宅の改修を地元の工務店に依頼すれば、これもまた地域で回るお金になります。
現在のエネルギー支出500億円分は、再生可能エネルギーをはじめとする新たな社会の仕組み作りのための、投資可能額ととらえることができる、と野澤さんは解説しました。
「SDGsのために何かアクションをしよう」というと、貧しい国や地域ではどんな社会課題があるのか、日本の今の課題は、、、とか飛躍しがち。でも櫻井さんや野澤さんらのお話からは、まずは自分の住まう場所にどんな現状があって、どんな課題があるのか、その解決のために自分には何ができるか、そういう視点がサステナビリティには大事だと気づかされます。
野澤さんのお話の後半は、次号で。SDGs時代のビジネスパーソンとしてぜひ見習いたい、未来の捉え方とは?どうぞお楽しみに。
京都大学総合人間学部、同大学院人間・環境学研究科修士課程修了。専攻は文化人類学、クロアチアで戦災からの街の復興をテーマにフィールドワークを行う。
株式会社ビジネスコンサルタント入社後、企画営業・営業マネジャーを担当。現在は同社の研究開発部門で、環境と社会の両面でサステナブルな組織づくりにつなげるための情報収集やプログラム開発等に取り組んでいる。Good Business Good Peopleの中の人。