サスティナブルビジョンをいち早く取り入れ、そのノウハウを世に送り出すことで競争優位を築いているスウェーデンは、何をどのように取り組んだのでしょうか。
今回はストックホルム市にあるエコシティ ハンマビー ショスタッド地区での視察をレビューしてみたいと思います。
エコシティ創造でオリンピック招致!?
まずハンマビー ショスタッド地区に降り立って驚いたことは、とても緑が多くて視界が広く、非常に整備された近代的な住宅街である印象を受けたことです。20年前に造られた街で、サスティナビリティの先駆的な事例であるにもかかわらず、今見ても進んでいる印象を持つことは私にとって大きなインパクトでした。
この地区を造るきっかけは、ストックホルムの急激な人口増加に対応するためだそうです。住人が毎年2万人増えている中で住むところを確保しなければならず、都市計画の中で住宅街を造る構想が生まれたのです。
更には、環境面をPRすれば、2004年の夏のオリンピック招致を狙えるのではないか!と、環境面に重きを置いた取り組みがスタートしました。残念ながら1996年、オリンピック委員会に申請するも断わられてしまったそうですが、環境に関する野望は捨てずに継続して取り組んだ結果、世界各国から視察に来るエコシティが構築されている、ということです。
もともとは荒れ果てた工業団地だった・・・
このエリアはもともと工場団地でした。当時はビジネスの廃棄物等のケアはせず、法律に背いていることも多々あり、化学物質が捨てられ、土壌が汚染されたエリアになってしまっていました。
しかし、このエリアはストックホルムからの利便性も悪くない。人口増加にある中、住む場所を確保していかなければいけない、というストックホルム市の課題を解決するために、工業団地をきれいにして住宅街にするという一大プロジェクトが市主導で立ち上がりました。
このプロジェクトグループの特徴は、行政の建築課、土木課だけでなく、環境部門ほか様々な部署を超えたプロジェクトチームであること。また建設会社や建築家も入って、90年代と比較してネガティブインパクトを50%減らすことを目標としました。今から約20年前、1997年のことです。
この建設プロジェクトを始めるにあたっては、広大な土地の土壌のクリーニングが必要です。早い方法ではないけれど、サスティナブルな都市を作ろうと思ったらこのようなやり方が望ましいと考え、取り組みがスタートしました。
「自然循環型社会」の実現 『ハンマビーモデル』
街をつくる上で大切にしたのは、自然の循環に合わせた社会の構築で、見えるゴミも見えないゴミも出さないということです。
実際、土地利用、土壌汚染、エネルギー、上下水道、廃棄物処理、建築資材、交通、騒音、緑地などさまざまな問題がありました。しかし、”エネルギー、水、廃棄物の全てが循環型で再利用されるように運用”し、今では『ハンマビーモデル』と評されています。
何より素晴らしいのは、住人が自然に暮らす中で家庭内外でも、自然循環が成り立つようにデザインされていることです。
一例では、
・アパートには最初から省エネ基準の一番高い冷蔵庫・エアコン・ストーブ等が設置されている(各自で購入するのではなく、一定基準以上ものを市が要求して建設会社が設置する)
・物を廃棄する前に、リサイクルできるものを取り除いてから廃棄する(パイプを通じて、真空でごみを吸い込むバキュームシステムを活用。一番左は燃やせるゴミ、真ん中は食べ残し、左は新聞など)
・人間が捨てる廃棄物を集め、プラントで水を温めて、パイプにお湯を流して暖を取る、または、シャワー等の温水を温める(熱変換)活用をする
・下水の汚泥や家庭から出た生ごみでバイオガスを作り、家庭用のガスレンジやバスのガス燃料に活用をする ・・・など
循環型経済を90年代から実践していて、インフラの中に全て環境対策が組み込まれる挑戦をしているのです。
現在同地区には13,000世帯、28,000人が住み、10,000人が働いています。
全ての人がこのエリアで働くわけではないので通勤手段が必要ですが、渋滞を避け、廃棄物、排気を減らすためにも、公共交通が充実しています。もちろんバスはバイオガス燃料です。
車を持たない暮らしが目標の一つで、カーシェアリングが進んでおり、共有の充電機もいたるところにあります。自家用車を保有している家庭は地区住民の60%しかなく、ほかの地区に比べてかなり少ないそうです。
日本に対する熱い期待
この街づくりは、行政はもちろん、地元の建設会社も共にリスクを取って開発に携わっており、持続的社会の構築のためのモデルになろうとする志の高さを体感しました。
さまざまな取り組みの説明の中で「これは日本の技術から学んでいる」という言葉を聞きました。浄化の仕組みにしても技術にしても、日本には素晴らしいものがある、と。
しかし一方で、「日本の技術なのになぜ日本で全面的にやらないのか」とも言われました。「誰かがやるでしょ、という感覚ではだめだ。自分がやらなきゃと思って取り組まないと!!」と。
スウェーデンは、日本と比べGDPで12.4%(GDPで比較するものではありませんが参考まで)、人口では7.7%と小さい国ですが、サスティナビリティに関しては比較にならないほど進んでいるという印象を持ちました。言い換えれば日本が本格的に取り組んだときのインパクトは大きいということです。
日本でもネット・ゼロ・エネルギーハウスを重視し始めたり、サスティナブルタウンを工場跡地に作るなど、動きが出てきています。いつか海外から学習に来てもらえるほどのモデルになる事を期待して、私たちもこの考え方を推進していきたいと思います。
【スウェーデン視察記 シリーズ記事】
- MAXハンバーガー編
- エコシティ ハンマビー ショスタッド地区編
- 第二のエコシティ ロイヤルシーポート編
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青山学院大学経営学部卒業後、株式会社ビジネスコンサルタントに営業職として入社。複数拠点の営業所長を経て、2001年から2003年まで当社経営倫理プログラムのプランニングコンサルタントとして活動、事業の立ち上げを行う。その後コンサルタント部門に移籍、現在はコーディネーターコンサルタント。専門領域は経営倫理(コンプライアンス)、リスクマネジメント、組織開発のノウハウを活用した組織風土改革など。2015年国際NGO団体 The Natural Stepの認定トレーナーを取得。フレームワークを活用したワークショップなどを手掛ける。