2020年2月19・20日、第4回サステナブル・ブランド国際会議2020横浜が開催されました。株式会社ビジネスコンサルタントは、本会議にスポンサーとして参加し、弊社コンサルタントがブレイクアウトセッションに登壇しました。 サステナブル経営に取り組む際に、評価指標となるツールが2種紹介されたセッションへの関心は高く、会場は満席。その内容をお届けします。

前回の記事:進む、サステナビリティの再定義_SB国際会議2020横浜参加報告

サステナブルブランドへの転換を促す、計測&アセスメントツール

満席の会場

弊社コンサルタント内藤康成が登壇したブレイクアウトセッションは、「サステナブルブランドへの転換 ~世界で注目される2つの計測およびアセスメントツールを紹介~」。サステナビリティ理解のフェーズはもう終わっていて、具体的な取り組みをどう進めるか?分かりやすい説明で、より多くの関係者を巻き込むにはどうしたらよいのか?活動をどう評価し、進捗管理するか?といった関心を持つような方々向けのセッションです。

モデレーターは、一般社団法人NELIS、ピーターD.ピーダーセン氏、そしてプレゼンターは以下の方々でした。
Sustainable Brands ダニエル クローン氏
Future-Fit 財団 トム ブレグマン氏
株式会社日立製作所 増田 典生氏
株式会社ビジネスコンサルタント 内藤 康成

これからのバリューマネジメントはQCD+S

ピーダーセン氏は、従来より「トレードオフではなくトレードオン」というキーワードを打ち出し、企業の競争力向上における、サステナビリティの重要性を強調されています。

ピーター・ピーダーセン氏

セッション冒頭に、「これからの企業はバリューマネジメントにあたり、サステナブルが前置詞としてついていないと、市場から排除されてしまいます」と、サステナビリティを現在の競争軸と位置づけ。「環境の制約がかつてなく強くなっており、従来はQCDをしっかりやり、品質を高め、イノベーションを起こす、それで市場で勝つことができました。しかしこれからは、それだけでは企業は生き残れません。QCD+ES、EcologyとSocietyを包含する必要があります。QCDに関しては、さまざまなマネジメントツールと評価指標が存在しています。しかしEとSについてはまだ確立されたものはありません。このセッションではその中でも最も開発・応用が進んでいると言えるツールを紹介します」というピーダーセン氏のコメントで、セッションが始まりました。

Brand Transformation Roadmapとは

1人目のスピーカーはダニエル クローン氏。米国のSutainable Brands(以下、SB)には、さまざまな分科会活動があります。その一つで取り組んできたのが、Brand Transformation Roadmapの開発。ブランドによるサステナビリティへの取り組みがスローダウンしてしまう要因は何か?を探ると大きく3つに集約されたそうです。
「経営幹部、組織内のさまざまな部門の人たちの巻き込みがうまくいかない」
「外部のパートナー探しがうまくいかない」
「もうすでにたくさん取り組んでいる(実際にはそうではないにしても)と認識している」
SBでは、これらの課題の解決に必要なのは、さまざまな人たちを巻き込むためのストーリーだと考えました。そのベースとなるのが、従来型ビジネスからサステナブルブランドへの変化の道筋を示す、Brand Transformation Roadmapです。

5×5のマトリックス構造を持ち、自己評価することで、自社のサステナブルブランドへの転換の段階を把握することを目的としています。

Future-Fit ビジネス・ベンチマークとは

2番目に登壇したのがFuture-Fit財団のトム ブレクマン氏。 Future-Fit 財団は、SBと同様に、企業によるサステナブル経営への舵きりが遅いことに課題意識を持っていますが、そのアプローチは異なります。
彼らの出発点は、ビジネスの力を地球のサステナビリティの課題解決につなげるためには、ビジネスが重視する「パフォーマンスの評価指標」を変える必要がある、という問題意識です。
四半期ごとの決算数字という評価指標しか持たなければ、経営はそれにとらわれ、重視せざるを得ません。しかし、そうした財務結果に基づく評価に従うばかりでは、今後の社会における持続可能性を保つことはできないでしょう。

新たな評価指標によって、企業は新たな価値観を手にすることができる

そこでFuture-Fitが提唱しているのが、「システム価値」を創出する経営への転換です。

このような環境・社会・経済のトリプルボトムラインの観点から企業のパフォーマンスを可視化するために開発されたのがFuture-Fitビジネス・ベンチマークです。以下のような活用ができます。
・企業がサステナビリティを実現するための正しく、長期的な目標設定ができる
・サステナビリティの科学に基づいており、システム思考での取り組みを促し、日々の意思決定を改善する
・ステークホルダーを巻き込むことができる

ネガティブとポジティブ、2方向で捉えるサステナビリティ

Futue-Fitビジネスベンチマークでは、自社の取り組みを環境・社会に「負の影響を与えない」「ポジティブな影響をもたらす」という2方向から評価・把握します。
≪損益分岐ゴール≫23項目
地球の環境と社会に、ビジネスが何ら負荷を与えない、損益分岐点ゼロを目指す
≪ポジティブな取り組み≫24項目
ビジネスを通じて地球の環境を回復し、社会をより良くする、あるいは他者がそうすることを支援する、「ポジティブな取り組み」に進んで取り組む

Future-Fitビジネスベンチマークを組織に実装するための豊富なツール

Future-Fit 財団が開発したベンチマークのガイドは、無料でダウンロードが可能で、自由に活用することができます。そして、組織への実装のためのツールもどんどん開発・アップデートされています。
・ベンチマークについて理解するためのオンライン学習
・自社のパフォーマンスを測定するためのアクションガイド
・多くの人を巻き込むためのワークショップツール 等々です。
(アクションガイド等の日本語への翻訳は、株式会社ビジネスコンサルタント弊社が担いました)

世界では、Future-Fitビジネス・ベンチマークをベースにアニュアルレポートを発行している旅行会社、投資先を選定している投資機関などがあり、活用が進んでいます。

Future-Fitビジネスベンチマークの無償ダウンロードはこちら

Future-Fitで摩擦を力に変える

株式会社ビジネスコンサルタントは、Future-Fit財団の日本での唯一の認定パートナーです。内藤は、サステナブル経営の推進のためにこのツールを活用する利点を、事例を交えご紹介しました。

はじめに、内藤が会場の皆様に問いかけたのは、「こういったアセスメントツールは、本当にうまくいくの?と懸念をお感じなのではないでしょうか」という質問。

ここでの「うまくいく」には、2つの意味があります。
1つ目は、サステナブルな活動の進捗を示すために、無駄がなく、論理的なのかというツールそのもの実用性に関すること
2つ目は、これを自社にあてはめ実行しようとしたとき、現場の方々がツールに必要な情報を調べたり、集めたりして協力してくれるのかという、実行プロセスに関すること
内藤はこの2番目の観点で、事例を交えご案内しました。

自社のサステナビリティの現状、合意形成できていますか?

「ある化学品メーカーの事例をご紹介します。各事業の部長クラスを対象にワークショップを開催し、サステナビリティに向けての重要課題の設定、マテリアリティの検討でご一緒した時の話です。」
「ワークショップでは、事前にFuture-Fitビジネス・ベンチマークの損益分岐ゴール23項目を読みこみ、優先順位付けをしていただきます。検討会議ではお互いの見解を突き合わせ、コンセンサスを取っていきます。」
「この議論が重要です。討議前は、ほとんどの方が「みんな同じ認識だろうから、そんなに揉めないだろう」と思っています。しかし、実際に議論を始めると、最初は全くまとまりません。部門が違うと、立ち位置、知っている情報、接している関係者が違います。製造は仕入先を、営業はお客様を見ているので、緊急性の認識に温度差があります。」
「お互いの情報を突き合わせて相互理解を深めながら評価していく途中では、率直なやり取りが行われなかったり、大きな声に引っ張られたり、健全な議論が行われないことがあります。私の仕事は、そういう場面で介入し、議論への全員の参画を高め、合意納得の結論に近づけるサポートをすることです。」

Future-Fitビジネス・ベンチマークは、変革への抵抗を乗り越えるのに役立つ

サステナブル経営に本腰で取り組む、というのは、ビジネスモデルや組織のあり方、仕事の進め方におのずと変革を伴います。変革への抵抗は、変革活動の目的が不明確だったり、変革活動の計画への参画が不十分だったりすると起こります。
「ご紹介したような取り組みは、一見非効率で時間がかかって面倒なように感じますが、現場の抵抗、摩擦を変革へのパワーに変えるためには必要なプロセスになります。その場を作るための道具として、Future-Fitビジネス・ベンチマークはとても便利なツールです。指標を出すためのツールであるだけはなく、サステナブルなビジネスのあり方を正確に伝える、それによって相互理解を図れるコミュニケーションツールであると考えます。

日立製作所が取り組む、事業が創出する社会・環境インパクトの見える化

4番目に登壇された株式会社日立製作所の増田氏は、2017年以降、サステナビリティ戦略として同社がどのような取り組みを重ねてきたのか、そして現在の立ち位置について紹介されました。

2017年:SDGsの理解、主要事業とのかかわりを整理
2018年:事業が創出する社会・環境価値を可能な限り定量的に評価。またネガティブインパクトを明確化
2019年: 2021中期経営計画で、同社としては初めてトリプルボトムラインを意識した事業を推進すると明言。自社独自で、事業が創出する社会・環境、いわゆる非財務インパクトの見えるかと、評価手法を構築中

驚かされるのは、これほどの事業規模を誇る同社が、こうした取り組みを、外部コンサルタントに任せず、有識者等とのコミュニケーションは十分に取りながら、自社で独自に進めているということです。背景には経営トップの強力なコミットメントがあるとのことです。

サステナビリティのキーワードは、再生・回復、エクストラフィナンシャル

セッションの冒頭で、「これから企業はQCD+ESでのバリューマネジメントが求められる」と指摘したピーダーセン氏。まとめのコメントにおいて、登壇者のプレゼンの中からいくつかのキーワードを指摘されました。
まずは「Regenerate:再生」「Restore:回復」です。これらのワードは、欧米でサステナブルが語られる際、頻繁に耳にします。企業は価値創造やイノベーションに取り組む際、環境や社会の劣化をどう再生し、回復するか、の視点を持つことが重要になります。
そしてもう一つ押さえておきたいのが、「extra-financial」なバリューを目指すということ。ポイントは、「non-financial(非財務)」ではなく「extra-financial(財務を包含し、それを超えた)」であるということ。このセッションで紹介されたツールは、そのためのフレームワークを提供するものです。

企業の業績評価基準とイノベーションの源泉とが、新たなフェーズを迎えていることを実感するブレイクアウトセッションでした。


本ブレイクアウトセッションで紹介されたFuture-Fitビジネス・ベンチマークについて、より詳しいご案内と資料のダウンロードはこちらからどうぞ。

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