「2020年までに環境への負荷をゼロにする」
そんな無謀とも思えるミッションを掲げ、サステナビリティの取り組みを続けている企業があります。世界的なタイルカーペット会社であるインターフェイスです。
驚くことにインターフェイスは、この「環境への負荷をゼロにする“ミッション・ゼロ”」に全社をあげて取り組むことで競争優位を生み出し、世界トップシェアを保ち続けているのです。
インターフェイスは、なぜ「ミッション・ゼロ」に取り組むことになったのでしょうか。そして、サステナビリティの取り組みがなぜ、競争優位の源泉となっているのでしょうか。インターフェイスジャパンのカントリーマネージャー福元美和さんにお話をうかがいました。
タイルカーペットの世界シェアナンバーワン
インターフェイスは、アメリカ、アトランタに本社を構え、タイルカーペットを世界110カ国に販売するグローバル企業です。タイルカーペットとは、数十cm角にカットされたタイル状のカーペットのこと。通常のカーペットに比べて、運搬がしやすく、施工が容易でロスも少ない上、部分的な取り替えもできるため、その利便性の高さから多くのオフィスや商業施設などで用いられています。
「インターフェイスのタイルカーペットの特長は機能性とデザイン性。汚れがつきにくい防汚加工によりメンテナンスがしやすく、また、人体に害の無い抗菌剤を使うことによる抗菌効果もあり、多くの医療施設でも使用されています。デザインは、様々な色、柄、風合いのものをバラエティ豊かに数多くそろえていますが、特に人気があるのは、落ち葉や岩、海などの自然や、石畳や砂利など自然に調和する人工物をモチーフにした独創的なデザインのタイルカーペットです」(福元さん)
インターフェイスは1973年に創業。1990年代には世界的企業に成長しましたが、環境への取り組みなどは特になく、法的な基準をクリアしている程度のごく一般的なタイルカーペット製造販売会社でした。そんなインターフェイスがいったいなぜ、不可能とも思える「ミッション・ゼロ」に取り組むことになったのでしょうか。
タイルカーペット会社が「ミッション・ゼロ」を始めた理由
転機は、1994年の夏に訪れます。創業者であり前会長のレイ・アンダーソンがある1冊の本と出会ったことで同社の運命が変わりました。その本は、ポール・ホーケンの著書『The Ecology of Commerce』(「サステナビリティ革命―ビジネスが環境を救う」ジャパンタイムス)。商業活動をすることは、地球から資源を搾取し生態系にダメージを与えることであり、それを続けると最終的には自らの商業活動自体も立ち行かなくなってしまう。そのため、企業はこの問題を解決する責任を負っている、と記されたこの本に衝撃を受けたレイ・アンダーソンは、インターフェイスをサスティナブルで生態系にダメージを与えない会社にすることを決意しました。
レイ・アンダーソンは、原料として、また加工の際にも大量に石油資源を必要とするカーペットの製造工程を見直すなど、環境への影響を減らす取り組みを始め、2020年までに地球環境へ与える負荷をゼロにする「ミッション・ゼロ」という目標を掲げ、全社をあげて取り組むことを発表します。具体的には、
- 廃棄物ゼロ
- 環境に悪影響を与えない排出
- 再生可能エネルギー
- ループを閉じる(再利用材とバイオベースの素材利用で技術的なループを閉じる)
- 資源効率の良い輸送
- ステークホルダーを巻き込む
- ビジネスモデルをリデザインする
とはいえ、社内でも最初からこの壮大な目標が受け入れられたわけではなかったようです。福元さんは、「私が入社する以前のことなので、詳しくは分かりませんが、最初は社長の特命イノベーションチームのようなものを立ち上げ、そのチームがリーダーシップを発揮して、様々なプロジェクトを行っていったようです。この特命イノベーションチームは、メンバーの顔ぶれを替えながら今でも続いていて、このチームのメンバーが様々な人を巻き込み、牽引して『ミッション・ゼロ』に関する取り組み、活動を積極的に行っています」と話します。
その結果、2014年現在、
- 1996年と比較して、温室効果ガス(GHG)の排出量71%減少
- 1996年以降、グローバルでの廃棄物処理コスト4億5百万ドルを削減
- 1996年以降、グローバルでの埋め立て廃棄67%回避
- 1996年以降、タイルカーペット製造工場における製造時の水使用量72%削減
- 1996年以降、製造時のエネルギー使用量44%減少
など、目覚ましい成果を上げています。
2011年にレイ・アンダーソンは亡くなりますが、その遺志は社内に強く残っていて、イノベーションチームを中心に、全社員が2020年に向け、「ミッション・ゼロ」を続行しています。
こうした取り組みは、製造現場だけでなく、商品デザインにも影響を与えています。「インターフェイスの商品には、落ち葉や海など、自然にインスピレーションを受けてデザインされているものが多くあります。やはり無機質な環境にいると人はどうしても憂鬱な気持ちになってしまいます。オフィス環境にグリーンなど少し自然環境を思い出させるものを取り入れることで、働く人が心地よくなり、生産効率を高める手助けができるのではないか、と考えているのです。」
実は、自然からインスピレーションを得たランダムな表情があるデザインのタイルカーペットには、美しいだけでなくカーペットの切れ目の縦のラインが目立ちにくく、組み合わせがしやすい、という利点があります。少々異なったデザインや色のものを張り替えても、違和感なく馴染むため、在庫を多く抱える必要がなく、その分無駄が省けるというメリットも備えているのです。
イノベーションチームはタイルカーペットの製造、販売という事業に直接関わるサステナビリティの取り組みだけではなく、様々な外部機関を巻き込んだプロジェクトにも積極的に取り組んでいます。その1つが、「ネットワークス」という取り組みです。
イタリアの糸の会社、フィリピンの漁村コミュニティ、ロンドンの動物学会を巻き込んだサステナビリティの取り組みとは?--->(2)CSRは営業活動の一部!? へつづく
【サスティナブル事例】タイルカーペット世界一 インターフェイス社
- 【1】環境への負荷ゼロを目指す
- 【2】CSRは営業活動の一部!?
- 【3】社員が一丸となる3つの理由
- 【4】持続可能性が競争優位の源泉
タイルカーペットの世界トップシェアを持つインターフェイス社。彼らが社内外の人々を巻き込み、ビジネスモデルの変革により実績を積み重ねている秘訣をインタビューし、4つの章にまとめました。本記事では1章のみお伝えしましたが、いかがでしたでしょうか?4章すべてをご覧になりたい方は、下記より是非ダウンロード頂き、貴社の取り組みにお役立てください。
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1972年東京都生まれ。慶應義塾大学文学部卒。通信社、出版社勤務を経て、2006年にフリーランスライターとして独立。ビジネス誌、専門誌を中心に、企業の人材育成、人材マネジメント、キャリアなどをテーマとして、企業事例、インタビュー記事などを多数執筆。人事・人材育成分野の書籍ライティングも手がけている。