私たちの会社では、お客様先の研修会やセミナーで使用するテキスト、営業用のパンフレットに、「FSC®認証紙」を使えることになりました。(※1)

FSC認証マーク

FSC認証とは、一定水準を満たす責任ある管理がなされた森林から切り出された木材を使用した、紙・木製品にだけつけることができる認証マークです。このFSCについて私は名前は知っているし、マークの付いた製品も使ったことがあるけれど、仕組みや考え方について詳しくは知りませんでした。

プリントボーイ様社屋

プリントボーイ様本社
(世田谷区)

しかし知れば知るほど、サスティナブル経営のために積極的に選びたい認証であることが分かり、自社でお客様にご提供できるようになったことをとてもうれしく、誇らしく感じたので、ぜひここでご案内したいと思いました。

そもそも弊社でテキスト類をFSC認証紙にすることができるのは、弊社が印刷関係を全面的に依頼している印刷会社の株式会社プリントボーイ様がFSCCoC認証を取得してくださったためです。時間も手間もお金もそれなりにかかる認証取得、プリントボーイ様はなぜ決行してくれたのか。FSCの認証の仕組み・その意味合いと併せてご案内します。

グリーン購入法だけではサステナビリティには不十分、これからの「責任調達」とは

日本でFSCの普及・制度運用をおこなうNPO法人FSCジャパンでお話を伺う中で驚いたことを一つ紹介します。それは東京オリンピックの調達基準を決める際に、「グリーン購入法を満たしているだけでは世界的な潮流から見て不十分」という批判がされ、調達基準が見直されたことです。グリーン購入法は、2001年に施行されて以来、日本国内で政府・自治体・企業が調達の基準として依拠してきました。このグリーン購入法は主に「環境面」を重視しています。いわゆる資源の無駄遣いをやめようということです。しかし昨今では環境に加え、「社会」や「経済」などの側面にも配慮することが重要だという認識が世界で広まっています。東京オリンピックに向けて、この「責任調達」と呼ばれる考え方は日本でもますます広がっていきそうだと感じました。

FSCは「環境」「社会」「経済」の3つの視点から、森林を管理し、その森林から得られた木材を適切に活用することで森に利益を還元し、森のサステナビリティを高めようという仕組みです(詳しくはこちらの記事で)。このFSCはどうやってその価値を守っているのでしょうか?

今回、認証取得の流れ、実際に認証紙を使っている現場を取材・見学して驚いたのは、認証紙に対する管理の厳密さ。新たにマニュアルを作成し、印刷前の在庫の段階から、作業スペース、印刷済み資料の保管など全ての段階で「FSC認証紙」であることを明示し、認証ではない紙と混ざってしまわないように管理や記録がなされます。

なぜこのように厳しい管理をしなくてはならないのでしょうか。これはFSCジャパンの事務局、岩瀬さんにお話を伺うことで理解ができました。

FSCの価値の源泉、厳しいチェック

FSC森林認証には、「FM認証」という森林に対する認証と、「CoC認証」という加工・流通業者に対する認証の二つが存在します。(※1)

FMForest Management)認証

ある区域の森林を管理する組織(日本では森林組合や林業を営む企業、自治体)が取得する認証で、先の記事でご紹介をした、10原則をもとに管理体制が審査されます。なお、現在日本国内には34組織、約40万ヘクタール、世界では83カ国に1501件、約19667万ヘクタール(20177月時点)の認証取得林が存在しています。

CoCChain of Custody )認証

FSC認証材を用いて製品を製造・加工・販売する業者が取得するもので、FM認証を取得した森林から切り出された木材が、他の木材と混ざることなく管理がなされて最終的に消費者へ届けられるための仕組みです。日本では1220件、世界では122カ国で32431件の事業者が認証を取得しています。
https://ic.fsc.org/en/facts-and-figures

FSCがこの2つの認証を厳しく管理するのには「グリーンウォッシュ対策」という観点もあります。グリーンウォッシュとは、環境に悪影響を及ぼす活動をしている企業が、他のCSR(社会貢献活動)などをアピールすることで、その行為を隠そうとすることです。(※世界自然保護基金(WWF) ウェブサイトより)本当は環境破壊をしているのに、「FSC認証マークがついているから大丈夫」と消費者に見せかけるためにFSCが使われることがあってはなりません。

ただし、現在世界で利用できるFSC認証紙は「FSCミックス」と言われるものです。これはFSC認証林から製造されたパルプに、そうではないパルプもミックスされてつくられる紙です。残念ながらFSC認証林から作られるパルプだけでは、世界の紙需要には応えられないためです。「純度100%ではないと意味がないのでは?」と思う方もいらっしゃるかもしれません。そこでFSCではこのミックスする材料に対しても5つの条件を設定しています。①違法伐採をしていない、②人権侵害をしていない、③森林内の保護価値の高いところを守っている、④天然林を伐採した後の植林ではない、⑤遺伝子組み換えではない、これらを満たす材料のみが「管理木材」とされ、FSCミックスの原料として使用することが許可されます。これらは当初国内の製紙メーカーではこの基準を満たして紙を作るのはとても困難だ、と言われたくらい厳しい内容です。

さて、このFSC森林認証の取得にあたって、実際にはどのような手続きが必要なのでしょうか。株式会社プリントボーイ代表取締役社長の本越さん、取締役副社長の結城さん、DC部部長の峰岸さん、係長の上野さんにお話をうかがいました。

FSC認証取得のステップ

①認証機関の選定

プリントボーイ様副社長

認証取得を推進、結城副社長

日本では現在、FSCのCoC認証の認証機関は5社あります。プリントボーイでは数社から説明を受け、選定をしました。

この認証機関は、企業ではありますが文字通り「認証を担う機関」ですから、認証取得をサポートしてくれるコンサルティング会社とは違います。そのため基本的には認証に必要な書類がどのようなものでどういった作業が必要か、といったことは自社で考えて進める必要があります。上野さんは、「初めてのことで日本語版の書類だけでは不明点も多く、必死でFSCのサイトから英語の書類を引っ張り出して、勉強しました」とのこと。

②認証取得に必要な提出書類・社内体制の確認・整備

印刷業であるプリントボーイの場合、大まかには下記のような書類を準備しました。

プリントボーイ様 峰岸部長

紙と印刷と気配りのプロ、峰岸部長

・業務マニュアル
FSC認証紙を使って作る製品のリスト
・各業務の責任者や協力会社のリスト
・社内および協力会社への教育実施の記録

これらは上野さんが各業務の責任者と何度もやり取りをして、マニュアルを作成したそうです。

③社内への教育実施

マニュアル通りに正しく作業を進めて、FSC認証紙の管理を行うために、教育は重要です。とはいえ、担当者からは「何をしたらよいのですか」という不安の声も。上野さんはひとつひとつの質問に答えて、理解を進められたそうです。

④協力会社への説明・作業依頼

プリントボーイでは一部製品については協力会社に加工を依頼しています。

プリントボーイ様DC部係長

上野係長が認証取得の中心的役割を果たす

10社以上ありますが、すべての会社へ上野さんは赴き、勉強会をされました。

さらに大変だったのが、プリントボーイとは別の認証機関でCoC認証を取得している会社との、業務の進め方の変更に関する合意。認証機関により、基準の適用の解釈に違いがあり、その調整が必要になったそうです。「それぞれの認証機関と調整、さいごはFSCの本部に確認を取る必要があり、それだけで23カ月要しました」(上野さん)

⑤認定の取得とFSCラベルの使用

1年以上の準備期間を経て、晴れてプリントボーイはCoC認証を取得。6月からFSC認証紙を使った印刷が始まり、今のところ印刷機の不調も発生せず、しっかり分別管理をしての作業が進められています。

FSC認証紙の在庫

FSC認証紙であることを明示してストック

FSCでの印刷指示書

社内の作業指示書にもFSCを明示、専用スタンプも作った

FSC認証紙の印刷

FSC認証紙であることを明示して印刷作業

FSC認証紙伝票

徹底した伝票管理

模造紙

研修で使用する模造紙もFSC認証紙

パンフレット

パンフレット

テキスト

研修のテキスト

先ほどもご案内したようにFSCではラベルの管理も厳格です。認証を取得したからと言って、好き勝手にマークを使えるわけではありません。製品1点ごとに、どの場所にどの大きさでラベルを掲載するか、認証機関を通じてFSC本部に申請する必要があります。

サスティナブルな選択は、付加価値も社員のエンゲージメントも高める

プリントボーイ様社長

本越社長、温和にサステナビリティについてお話頂きました

なぜプリントボーイでは手間も費用もかかるFSC認証を取得したのでしょうか。

「私たちの世代にはよく分からないところもありますが、これからの時代、サステナビリティは大事なことですからね」(本越社長)
BConさんに言われたのでやっただけですよ」(結城副社長)

と謙遜して仰いますが、やはり同社が顧客へのより高い価値の提供と長い関係性づくりを大事にしている会社だからこそ、取得を決意されたのだと思います。

経営とサステナビリティのことを考えていると、環境保護のためにやってはいけないこと、禁止事項ばかり言われて閉塞感を抱いてしまう…といった、残念な誤解を招いてしまうことがあります。現実的にビジネスでも日常生活でも、紙の使用をゼロにするということはまだできません。そんな中、「責任ある管理をされた森林資源を使う」というのは、皆にとって分かりやすく、意義を感じやすいサステナビリティへの取り組みと言えるのではないでしょうかFSCによる森林管理のしくみやその背景にある考え方を理解すると、一社員として、そのような製品を提供できることがうれしく誇らしく思います。実際、私たちの組織でも、複数の社員がFSCについて知ることで、自社がサスティナブル経営に踏み出していることを実感できたと言っています。

毎日使うものの選び方を変えて、サステナビリティのために何ができるか、少し考えてみませんか。

※1 弊社は非認証取得業者ですが、FSCマークの商標利用ライセンスを取得しています。


FSCの価値についてさらに詳しくご紹介している、こちらの記事もあわせてどうぞ
木を使って森を守る!?_FSC®森林認証とは


サステナビリティを経営に取り入れるには、どんなやり方があるのでしょうか?より詳しい事例はこちらです!
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