「2020年までに環境への負荷をゼロにする」
そんな無謀とも思えるミッションを掲げ、サステナビリティの取り組みを続けている企業があります。世界的なタイルカーペット会社であるインターフェイスです。
驚くことにインターフェイスは、この「環境への負荷をゼロにする“ミッション・ゼロ”」に全社をあげて取り組むことで競争優位を生み出し、世界トップシェアを保ち続けているのです。
インターフェイスでは、環境への負荷を減らすサステナビリティの取り組みを、社内だけではなく、世界中の様々な外部機関を巻き込んだ形で展開しています。そうした取り組みの1つ「ネットワークス」について、インターフェイスジャパンのカントリーマネージャー福元美和さんにお話をうかがいました。
フィリピンの漁網をタイルカーペットに「ネットワークス」の取り組み
インターフェイスでは、外部機関を巻き込み、環境だけでなく、社会課題解決も絡めたCSRの取り組みを行っています。最近、発表されたものとしては、「ネットワークス」という取り組みがあります。「『ネットワークス』はインターフェイス社内のイノベーションチームと関係部署、外部機関が連携して行ったもので、タイルカーペットの原料のうち、『糸』に焦点を当てた取り組みなんです。」(福元さん)
タイルカーペットに使われている「ナイロン製の糸」はリサイクルが非常に難しい素材といわれています。インターフェイスは、この糸の原料を、リサイクル100%に近づけるべく、取り組みを続けていました。そのことで、「ミッション・ゼロ」へのアプローチの1つである、天然資源を消費しない「クローズド・ループ・システム」が可能になるからです。
一方、環境問題の専門家の間では、同じ「ナイロン製の糸」を使った漁業用の網が、海洋生物の生態系に悪影響をもたらしている、ということが問題になっていました。廃棄された漁網が海を漂うと、海洋生物を捕えてしまい、その命を無駄に奪うことになります。この「ゴーストフィッシング」現象は、漁網が打ち上げられるか回収されるまで、延々と続くため、世界中で問題となっています。
そこで、インターフェイスは、イタリアの繊維会社、フィリピンの漁村のコミュニティ、ロンドンの動物学会を巻き込み、廃棄された漁網からタイルカーペットを創る「ネットワークス」というプロジェクトをスタートさせました。ロンドンの動物学会には、漁網による海洋汚染の現状の調査を依頼し、フィリピンの貧しい漁村の人に漁網を回収する仕事を依頼。回収した漁網のリサイクルはイタリアの繊維会社に依頼。漁網だけでは足りない分は、工場内の端材や使用済みカーペットから採ったものも混ぜ、リサイクル率100%のナイロン糸を作りだしました。そして、捨てられた漁網がタイルカーペットに生まれ変わったのです。
この取り組みは、海洋生物の生態系の保護を目的としたものですが、フィリピンの漁村の人たちに対し、現金収入につながる雇用を創出するという目的もありました。ところが、この『ネットワークス』プロジェクトは、漁村の人たちに雇用を生み出しただけではありませんでした。というのも、その村ではこれまで、それぞれが魚を捕って生活をしていたのですが、村全体で協力して漁網を集めることで、互いに自然資源を分け合っていこう、といった助け合いの精神が育まれ、銀行のようなシステムが生まれるなど、コミュニティの再生にもつながったといいます。
「こうした取り組みは、社内のイノベーションプロジェクトチームを中心に進められ、社員は適宜、プロジェクトの進行具合を知らされるようになっています。このチームのコアメンバーはそれほど多くないのですが、社内外の人を巻き込んで大きなプロジェクトを行っています。もちろんこうしたプロジェクトは全て『ミッション・ゼロ』に基づいたものですので、全て経営陣が全面的にコミットしています」
サステナビリティの取り組みを伝えることは営業活動の一部
多くの会社では、このようなCSR活動を行うことと事業は別だと思われており、社内からは「CSR活動によって利益が減ってしまう分、販売価格を下げて競争力を付けた方がいいのでは」など批判的な見方をされてしまうこともあります。また、「自社のCSRの取り組みについて一般社員はほとんど知らない」といったこともよく起こります。ところが、インターフェイスでは、全社員がこうしたCSR活動に対してもコミットし、CSR活動について顧客に知らせることを営業活動の一部として当たり前のように行っています。
この点について、福元さんは「サステナビリティチーム」の存在を指摘します。インターフェイス社内にはイノベーションチームの他に、サステナビリティチームという部署があり、「なぜ環境に配慮した商品がお客様にとっても良いのか」を社内外に伝える広報活動を専門に行っています。このサステナビリティチームは、営業や販売、広報に近い部署にいて、「ネットワークス」のような取り組みを伝えたり、1994年から今まで環境への負荷を減らせたか、どれだけ再生可能エネルギーに変えたかといった達成率のレポート出したりしています。
「サステナビリティ担当が営業に近いというのは、サステナビリティの取り組みについて伝えることが、営業支援のひとつだと考えられているからです。インターフェイスの中では、環境にいいということと売上を上げるということは同じこととして考えられています。そのため、販売、営業部門においてはサステナビリティの取り組みについて顧客への理解を促進することを求められています。インターフェイスの商品はデザイン性、メンテナンスのしやすさなど様々な利点がありますが、環境への負荷が少ないということもそうした利点の1つと捉えて営業活動を行っているのです」
しかし、どれほどサステナビリティの取り組みに力を入れていようと、厳しい価格競争にさらされる日々の営業現場では、思わず忘れてしまうということもありそうです。「それが、思わずそうした取り組みをお客様に紹介したくなってしまうような仕掛けがあるんですよ…」と福元さん。「社員が思わずサステナビリティの取り組みについて話したくなってしまう仕掛け」とはいったいどのようなものなのでしょうか?--->(3)社員が一丸となる3つの理由 へつづく
【サスティナブル事例】タイルカーペット世界一 インターフェイス社
- 【1】環境への負荷ゼロを目指す
- 【2】CSRは営業活動の一部!?
- 【3】社員が一丸となる3つの理由
- 【4】持続可能性が競争優位の源泉
タイルカーペットの世界トップシェアを持つインターフェイス社。彼らが社内外の人々を巻き込み、ビジネスモデルの変革により実績を積み重ねている秘訣をインタビューし、4つの章にまとめました。本記事では2章のみお伝えしましたが、いかがでしたでしょうか?4章すべてをご覧になりたい方は、下記より是非ダウンロード頂き、貴社の取り組みにお役立てください。
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1972年東京都生まれ。慶應義塾大学文学部卒。通信社、出版社勤務を経て、2006年にフリーランスライターとして独立。ビジネス誌、専門誌を中心に、企業の人材育成、人材マネジメント、キャリアなどをテーマとして、企業事例、インタビュー記事などを多数執筆。人事・人材育成分野の書籍ライティングも手がけている。