解決したい問題は、危機感で動くよりも楽しい心で取り組む方が、発想が広がりいい結果が出せる。私たち人間の脳にはそんな特性があることを、前回の記事でご紹介しました。
危機感が強調されがちな環境問題も、同じです。アミタグループ(以下、アミタ)は、まさに関わる人たちが楽しくなるやり方で環境問題を解決しようとしています。しかもこのプロジェクトは、地域の社会問題も同時に解決し、ビジネスとして成立することを目指しています。
アミタ株式会社代表取締役社長(役職はイベント当時)の佐藤博之氏は、グリーン購入ネットワーク事務局長を務めるなど、企業活動にまつわる環境問題解決に長年携わってこられた方です。そんな佐藤氏が、講演の冒頭で語ったのが「私は環境問題と言われるものに25年以上関わってきて、その中で痛感したのは、環境問題というのは独立した事象ではないということです。環境問題を環境問題として解決しようとしたら解決できません」ということ。そして「私たちはグローバルな課題をグローバルに解決することはできません。地域という手触り感のあるところで、どうサステナブルな地域づくり をするか。今日はそういう意味で挑戦中のことについてお話しします」と語り始めました。
2019年4月23日に、株式会社ビジネスコンサルタントが開催した「SDGsが導く社会と経営のリデザインを考える~SustainOnline日本発売記念イベント~」。今回は、佐藤氏のトークセッション「循環型社会とコミュニティの再生 一人ひとりの当事者意識と参画のプロセス」から、ビジネスとして地域の社会課題解決にどうかかわれるのか、その時に必要な発想はどのようなものか、ポイントをお伝えします。
アミタが取り組む地域デザイン事業とは
廃棄物管理やリサイクル、環境戦略策定支援等で多くの実績を持つアミタ株式会社。同社がもう一つ力を入れているのが、自治体向けサービスの「地域デザイン事業」です。これはアミタが考える、自立分散(エネルギー、資源、食の自立)、人と人との豊かな関係性、自然との共生を実現し、持続可能な地域づくりを支援する事業です。
そして佐藤氏が力を入れ関わってきたのが、宮城県南三陸町です。
2011年3月の東日本大震災で甚大な被害を受けた地域の姿を目の当たりにし、佐藤氏は、「町が復活、復興するためにアミタが何をできるのか」「ここでアミタが貢献できなければ、アミタの存在意義がない」と感じたそうです。そこで、震災の翌月には現地に入り、翌年2012年には南三陸町に常駐の事務所を作り、地元の人びとが望む「どこにもないような町」「子や孫に誇れる町」を再生することに、ともに取り組んできました。
この取り組みは南三陸町バイオマス産業都市構想として、様々な事業がすでに社会実装されています。
・バイオマス循環システムを確立、生ごみ・し尿を回収してバイオガスを生成、発電・熱利用、さらに液肥を地元農業で利用し、食糧生産につなげる
・世界初、森林認証FSCと養殖認証ASC(対象は牡蠣)の同時取得
・子どもたちへの環境教育
など
佐藤氏は、南三陸での取り組みを次ステップに進めるため、2018年、ある実証実験に取り組みます。それが今回の主題、「環境問題を環境問題としてアプローチしない」につながるもの。南三陸町で資源循環を確立し、人と人のつながり・助け合いの関係を再生することを狙った、「MEGURU STATION」です。
ごみを起点にした地域づくりで、全住民が当事者に
「MEGURU STATION」とは、通常のごみ回収をやめ、住民がごみを分別し、分別指導員が常駐するステーションにみずからごみを持ち込む、という仕組みです。なお、自分ではごみ出しをできない人(交通弱者)もいますから、そういう場合は2週間に1度、個人宅への訪問回収も行いました。
この取り組みの主な目的は、資源循環と地域づくりです。なぜ、地域づくりで「ごみ」を扱うのでしょうか。佐藤氏は「ごみ出しはすべての人に共通する生活習慣だから」と言います。すべての人に共通という点では、エネルギーも同様なのですが、こちらは目に見えないから実感がわきずらい。ごみは目に見え、ごみを出さずに生活できる人はいません。ごみを起点に地域づくりを行うと、全住民が関わることになります。
2018年10月2日から11月30日の約2カ月にわたって実施された実証実験からどのようなことが分かったのでしょうか。
予想を上回る住民が参加!楽しさとやりがいが成功につながる
このMEGURU STATIONは、佐藤氏らが想定していた以上の関心と良好な反響が得られました。想定していた参加登録者(≒世帯数)は100名ほどでしたが、口コミで参加者が増え続け、最終的に参加登録者は401名となりました。
また、「MEGURU STATIONにごみを持ち込むことを今後も継続したいと思うか」というアンケートを行うと、「是非継続して欲しい」が81%、「まあ継続してほしい」が19%で、回答者(198名)の実に100%が継続を希望するという結果が得られたのです。
住民が自らごみを所定の場所に持ち込むという手間のかかる回収方法にもかかわらず、好評を得られたのはなぜでしょうか?
やりがい
佐藤氏によると、第一に、参加した人たちからは、「気持ちがいい」「やりがいになる」という感想が多く寄せられました。ごみをきれいに分別できること、資源化し、ごみを減らせること自体が、大きなやりがいを生んでいます。
「ありがとう」を循環させる感謝ポイント
さらにやりがいを補強するため、ステーションに来たり、資源ごみを持ち込むと「感謝ポイント」がもらえる仕組みも作りました。これはNECソリューションイノベータ株式会社が技術協力し、専用のポイントカードやスマートフォンアプリでポイントが貯められ、ポイントは近隣店舗の割引券、町への寄付などの形で利用できます。今後も、地域で「ありがとう」がめぐる仕組みとして応用を模索するそうです。
ごみ出しついでに生まれるコミュニケーション
MEGURU STATIONは、ごみを回収する以外にも重要な役割がありました。それは人と人が交流するコミュニティ拠点としての機能です。地域の住民がごみを出しに集まると、「あなたも来てたの?」「まあ、久しぶりね」といった会話が生まれます。震災以降、一度も会っていなかった人たちが、ここで再会したということも少なくありませんでした。
「井戸端会議ならぬ、ごみ端会議みたいなものが生まれてきたんですね。これは我々は仮説として持っていたんですけども、本当にそれが実証されたわけです」(佐藤氏)
ごみを分別・回収するスペースのそばでは、リユース市が常に開かれていました。「めぐりん棚」と題した棚に不用品を置くと、誰かが無料で引き取れるという仕組みです。何かを引き取ると「感謝ノート」に、感謝の気持ちを書き込むことも行われ、この棚をのぞくのが日課という方もいらしたそうです。
人が集まると経済が生まれる
地元の農家が野菜を販売したり、たこ焼きの屋台が出たりしましたが、売れ行きは好調だったそうです。なぜなら、人と人が交流し、コンビニよりもずっと長い滞在時間であったから。MEGURU STATIONを中心にして、地域でお金が循環する可能性を感じさせるものです。
ごみ出しの拠点が、思い思いの時間を過ごせる「サードプレイス」に
佐藤氏は、地域づくりで大切なことは、すべての人に「居場所と出番」があることだと考えています。
ごみ出しをきっかけに人々のコミュニケーションの場として機能しだしたMEGURU STATION。日課のように集まる高齢者の姿を見て、ベンチの近くに薪ストーブと薪割り器を設置することにしたのだそうです。
するとおじいさんたちが「薪割りはまかせとけ!」と張り切って薪を割ったり、子どもたちにやり方を教えたりするようになりました。誰でも人の役に立つことは喜びです。人と人が何かをする・されるという一方通行の関係ではなく、相互に協力し合えることが、誰もが生きがいをもって暮らしやすい地域をつくるのです。
職場でも自宅でもない、誰にでも開かれた居心地のいい場所というのは「サードプレイス」と呼ばれています。MEGURU STATIONは、まさに地域の「サードプレイス」として、ふらっと立ち寄って思い思いの過ごし方をできる場所になっていたのです。
地域課題の統合的な解決策とは
実はこの点が、佐藤氏らがMEGURU STATIONで目指した、統合的な地域の課題解決をよく表しています。ごみ回収のやり方を変え、資源回収率を高めること、それ自体は行政のコスト削減や環境問題の観点から重要です。しかし、佐藤氏によると、日本の自治体で環境問題をメインに据えているところはありません。子供の減少、子育て世代の減少、高齢化率の増加、それによるコミュニティの崩壊、産業の振興の必要性、などが中心課題です。
ごみ出しついでに誰かに会う、話をする、たわいもないことのようですが、これは高齢者の健康増進のキーワード「外出と会話」を一度にかなえています。
「そのうち、ごみ出しがきっかけだったねって忘れてもいいと思ってるんです。みんな、なんか行きたいからそこに集まるようになってるんだと。で、知らずにコミュニティが活性化して、みんな安心して暮らせる地域になったねって。これこそがwell-beingにもやはり重要な視点だと思います。そういったことができたら最初のきっかけは何でもいいんじゃないかなと。でも、ごみだからこそ、全員が関わるきっかけになったとはいえると思います。」(佐藤氏)
MEGURU STATIONを全国にコンビニのように広めたい
アミタが行っているこの実証実験は、無償の社会貢献活動やCSRのためではありません。ビジネスとして成立させることを目指しています。そのために、官民連携のPPP(Public Private Partnership)として、南三陸町をはじめ地方自治体や国と協力しながらこの取り組みをすすめています。ひとつひとつは小さな規模でも、多く集まればそれだけ大きな事業になります。佐藤氏はMEGURU STATIONを、全国に5万店以上 あるコンビニエンスストアのように広めたいと考えているそうです。
「ぜひともこれを成功させて、日本のSDGsの課題を解決し、さらに同じような課題は必ず外国やアジアの地域にもおとずれてきますので、そこについても解決するモデルをつくりたい」と佐藤氏は締めくくりました。
4回にわたって、「SDGsが導く社会と経営のリデザインを考える~SustainOnline日本発売記念イベント~」についてお伝えしてきました。4名の登壇者のお話を振り返り、今まさに私たちの日々の暮らしや会社のあり方が、根本から問われていると感じました。サステナビリティやSDGsは、岐路に立っている私たちが未来に向けた選択をするための道しるべとなります。
今回ご紹介した4名のサステナビリティの実践者に共通するのは、「よりよい社会や環境をつくろう」「新たな価値を創造しよう」といった、ポジティブな姿勢で活動しているということです。「今すぐ取り組まなければ大変なことになる」と危機感を抱くより、どんな環境や社会で生きていきたいのか思いを巡らせ、行動を起こすことが今、自分たちに必要なことだと感じました。
自組織でも何かアクションを始めたい、まずは「よく知ることから」とお感じの方にお勧めしたいのが、WEBプラットフォーム”Sustain Online”です。魅力的なコンテンツで、サステナビリティについて理解を深め、アクションのヒントも満載!ぜひ、無料のトライアルをご体験ください。
大学院修了後、沖縄電力株式会社に勤め火力発電所で技術職として働く。その後、京都造形芸術大学文芸表現学科を卒業しライターとなる。人がより良く生きるための環境や教育、働き方などに関心があり、経済誌『Forbes JAPAN』では、SDGsに関する記事を執筆。自身のウェブサイト「おばあめし」で、高齢の祖母と料理のエピソードを綴るhttps://obaameshi.com/ 京都造形芸術大学文芸表現学科非常勤講師