Good Business Good Peopleの大事なテーマの一つは、組織全体のwell-beingを高めるということです。well-beingとは、「幸せ、より良く生きる」ということを意味します。短期的なものというよりは長期的な幸せを指します。今回は、より良く生きる、より良く働くことへのヒントをもらいたくて、臨済宗総本山妙心寺退蔵院副住職、松山大耕さんにお話を伺いました。

日本人の価値観に深く影響を及ぼす禅

松山さんにお話を伺ってみたい!と思ったきっかけのひとつは、マンドフルネスの広まりです。well-beingを高め、より良い働き方にもつながるとして、本サイトでもご紹介をしました。マインドフルネスとは「今この瞬間」の自分の体験や感情をあるがままに気づくことです。瞑想をベースにした心のエクササイズとしても知られています。このエクササイズを続けることで、大人でも脳の機能が高まり、ネガティブな感情の抑制や、創造性・生産性の高まりをもたらすことが脳科学で実証されています。Googleといったシリコンバレーの企業のみならず、様々な業界で、パフォーマンスの向上につながるリーダーシップ・トレーニングとして取り入れられています。
そもそもマインドフルネスは、禅の考えを取り入れて開発されたものです。そうであれば、発祥の地、中国以上に発展をした日本の禅について今改めて学ぶことは、私たちがより良く働き、より良く生きることに何かヒントをもたらしてくれそうだと考えました。
禅は、今も日本の文化・風習・価値観に深く影響しているそうです。華道やお茶、剣道といった「道」と言われるものにはすべて禅の精神が反映されています。そういったものをたしなんだことが無くとも、「何かに無心に打ち込む」ことを美徳とする感覚には、共感される方も多いでしょう。

松山さんに禅とビジネス、リーダーシップについて、教えて頂きました。

妙心寺退蔵院副住職 松山大耕さん

<経歴>
1978 年京都市生まれ。2003年東京大学大学院 農学生命科学研究科修了。埼玉県新座市・平林寺にて3年半の修行生活を送った後、2007年より退蔵院副住職。外国人に禅体験を紹介するツアーを企画、外国人記者クラブや各国大使館で講演を多数行うなど、日本文化の発信・交流が高く評価され、2009年5月、観光庁Visit Japan大使に任命される。また、2011年より京都市「京都観光おもてなし大使」。2016年『日経ビジネス』誌の「次代を創る100人」に選出され、同年より「日米リーダーシッププログラム」フェローにも就任。2017年より京都造形芸術大学客員教授。
2011年には、日本の禅宗を代表してヴァチカンで前ローマ教皇に謁見、2014年には日本の若手宗教家を代表してダライ・ラマ14世と会談し、世界のさまざまな宗教家・リーダーと交流。2014年世界経済フォーラム年次総会(ダボス会議)に出席するなど、世界各国で宗教の垣根を超えて活動中。

<著書>
『大事なことから忘れなさい~迷える心に効く三十の禅の教え~』(世界文化社、2014年)
『京都、禅の庭めぐり』(PHP、2016年)
『ビジネスZEN入門』(講談社新書、2016年)

世界中のリーダーが注目する禅/ZEN

 私は京都の妙心寺という禅寺の塔頭で僧侶をしています。日本人の方も大勢お参りに来られますが、外国から禅を学びたいとお越しになる方が非常に増えています。なぜ、いま、禅が日本のみならず、世界のリーダーたちから大きな注目を集めているのでしょうか。日本人で禅を自身の経営哲学に組み込まれたリーダーとして有名なのは京セラの名誉会長でおられる稲盛和夫さんです。稲盛さんは妙心寺派の円福寺というお寺で得度も受けられました。また、スティーブ・ジョブズをはじめとする世界のリーダーたちが注目しているのは、仏教の中でも特に禅だといっていいでしょう。禅は、“ZEN”という言葉として、いまや世界的に広く知られるものになっています。

禅とビジネス

禅とは何か。その核にあるものを一言でいえば、「実践」です。ただ単に知識を得るだけではなく、とにかく実践を重んじるところが、禅がビジネスマンやリーダーの人に受け入れられる大きな要素です。
ただし、禅はすぐに目に見える利益を与えてくれるものではありません。だからもし、ピンポイントで即効性のあるゲインを求めたいのであれば、禅は役には立たないでしょう。

退蔵院庭園しかし、禅的な考え方を抜きにしても、「こうすれば出世できる」とか「一分で学べる○○○」といったような方法が一朝一夕では決して身につかないことは皆さんもよくおわかりではないでしょうか。そうした一時しのぎのものに手を出すのは、結局は自分のためにもならないし、社会にとっても有益なことはほとんどありません。それでも、そういった怪しい類いのものがなくならないのは、とにかく楽をして苦労せずに何かを得たいという人がいつまでたってもいなくならない、ということなのでしょう。
一方、禅はすぐに役立たないと言っても、禅の考えを知り、それを日々実践し、長期的な視野で利他の心を持って物事を考えれば、いつか必ず、自分に返ってくるときが来ます。より大きな何かをその人にもたらしてくれるかもしれません。そういう意味では、禅がビジネスに貢献するということは、即効性のある直接的なゲインを求めないこととも全く矛盾しないのです。

「法輪転じて食輪転ず、食輪転じて法輪転ぜず」

これは私が師匠からよく言われた言葉です。物事は車輪のようになっている。例えば車がお寺だとすると、「法輪」とは、しっかりと仏法を伝えること、正しい教えを実践することです。それをしっかりとやっていけば「食輪」、すなわち衣食住は後から勝手についてくると。しかし、まず衣食住のことを頑張ろう、つまり、贅沢したり、いいものを食べたいという方だけに力を入れても法輪は転じない。本来やるべきことがしっかりしていなければ、お寺は動かないということです。
一時の損得ではなく、一つの生き方としてビジネスを捉える。そういう視点に立てば、禅は非常に貢献できるのです。そして、まさにこういった考え方が近江商人の「三方よし」という哲学や短期的な利益を追求するよりも世代を超えて長く継続できる老舗をよしとする、日本的経営にも通じるところがあるのではないでしょうか。外国から禅を学びに来られるリーダーたちもこういった日本的経営、仏教の哲学に注目されている方が大勢おられます。短期的な利潤の追求はエキサイティングではあるけれども、本当の人生の歓びではない。世界のリーダーたちの中にも、そこに気づき始めている人が徐々に増えているような気がします。(臨済宗総本山妙心寺退蔵院副住職 松山大耕さん)


 松山さんのお話を伺って、経済的で短期的な成果を出すことに追われるだけではなく、持続可能であるための価値創造をしたいと感じているビジネスパーソンの方々が増えていることを再確認しました。Good Business Good Peopleは今年も、well-beingが高くて、持続可能な将来にむけたイノベーションがどんどん起こせる組織づくりのヒントを発信して参ります!


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【臨済宗総本山妙心寺HP】http://www.myoshinji.or.jp/index.html
【退蔵院HP】http://www.taizoin.com/
妙心寺は、京都市右京区にある日本最大の禅寺です。その塔頭の一つ、退蔵院は、桜・紅葉など季節ごとに美しい庭園、日本最古の水墨画である瓢鮎図でも知られています。