仕事柄、「人が育つ組織の特徴は?」と聞かれることがあります。なかなか難しい質問ですが、外せない要素は、「Here and Nowのフィードバックができている組織」ということになるでしょうか。お互いがお互いの成長のために投げかけあうもの、それがフィードバックです。そして大事なことはHere and Now(今ここで)。There and Then(あの時あの場で)ではインパクトにも欠けるし、場合によっては不安をあおるだけになってしまいかねません。このことは長年、経験知的に語られてきたのですが、今や脳科学の知見からも当を得たことであることが分かってきました。

脳を理解すると、組織運営が変わる!?

組織や個人のパフォーマンスを高めるために脳科学で明らかになってきたことを活用しようという流れが、ここ数年顕著になっています。私の同僚が昨年参加した「ニューロリーダーシップインスティテュート(NLI)」の年次カンファレンスでは、スピーカーはビジネススクールの教授といった研究者のみならず、組織やマネジメントの改革に取り組む企業のリーダーが多数登壇し、700名を超える参加者で盛り上がっていたそうです。

このNLIが打ち出していて、戦略・マネジメントの雑誌でも過去15年間のベストアイディアに選ばれているモデルが「スカーフ」と呼ばれるもの。首に巻く、あのスカーフと読み方もスペルも同じ、「SCARF」です。

人の生存戦略上の要とは

SCARF」の中身の説明の前に、突然ですが、種としての人間にとって、生存可能性を高めるために最も重要なこととは何でしょうか?

それは、「集団に属していること」です。狩猟採集でも農耕でも、人間は集団に属し、社会を形成することで生業を成り立たせて、子孫を残してきました。「集団の中で認められる」ことが食べ物を得るのと同じくらい価値ある「報酬」である一方、「集団から排除される」というのは人間にとっては大いなる「脅威」です。

ですから、人間は社会的な自分の立場や評判、関係にはとてもセンシティブになるように発達してきました。オフィスで働く人たちにとって、食料が手に入らないとか猛獣に襲われるといった脅威は幸いにもありません。しかしさまざまなステークホルダーと協働して仕事で成果を上げる過程には、脳が生存に影響を及ぼす報酬や脅威と感じるポイントがいろいろと存在します。

「SCARF」は、この人間が報酬と脅威を感じる引き金となる領域を5つに整理して、その頭文字を取ったものです。

SCARF5領域

Status 地位

他者と相対して、自分の地位は高いか低いか。

Certainty 確実性

将来の確かさ。脳はパターン認識でもって常に近い未来のことを予測し、円滑な動作や行動を可能にしています。そのためパターンと異なるものは、脳にとっては「エラー」であり脅威と認識されます。

Autonomy 自律性

環境や自分の身に起こることを統制できているか、さまざまな選択肢を自らが持っているか。

Relatedness 関係性

人とつながっているという感覚があるか。

Fairness 公平性

人と何かを交換するときに公平であるか。

私自身の経験と照らし合わせてみても、どれもないがしろにされると嫌だなと思うことばかりです。でも、何か課題を達成しようと意気込んでいるときや、仕事上での日常的なコミュニケーションでもついつい置き去りにしてしまっているように思います。

There and Then」のフィードバックが嫌がられる理由

冒頭のフィードバックの話に戻ります。SCARFモデルから考えられる、良いフィードバック、悪いフィードバックとは、どのようなものでしょうか。
例えば、

「この間の会議のあなたの発言、なんとなく受けが悪かったよね」
とフィードバックされたAさんはきっと次のように思うでしょう。

「私の知らないところで私の評判が下がっている(地位)」
「なんとなくって、どういうことだろう、内容?言い方?何を直せばよいのだろうか(自律性)」
「今更こんなことを言ってくるなんて、私のことが嫌いなんだろうか(関係性)」

これでは、Aさん自身、具体的な改善策が分からず成長することはできないし、次の会議では発言すること自体躊躇してしまうかもしれません。もしくは、フィードバックされたその瞬間は適当に受け答えするものの、内省につなげず受け流してしまうという選択肢を取るかもしれません。

好ましいフィードバックとは、今、ここで、できれば複数の人の視点でなされるものです。

「今の会議で、Aさんの〇〇の発言は分かりやすいと感じました。でも、△△のところはもう少し根拠や理由を示して欲しいと思います。」
「今の会議で、Aさんの説明は丁寧で良かったけど、私たちのボスは長い話が好きではないから、いらいらさせているのではないかと心配になりました。」
「今の会議で、Aさんのあのタイミングでの発言は、皆に建設的な気付きを与えおり、私にも良い刺激になりました。」

 SCARFの観点から考える効果的なフィードバックとは、フィードバックを受け取る相手の地位や自律性を傷つけないことが第一です。指示やアドバイスを押し付けるのではなく、「私にはあなたがこう見えました」「あなたと一緒にいて、私はこう感じました」といった、「あなたと一緒にいた私」の経験に基づいて話すと良いそうです。

「脅威」にさらされたときの脳の状態

 人間の脳が「脅威」でいっぱいになってしまうと何が起きるのでしょうか。
さまざまな反応からひとつ取り上げると、脳では、ワーキングメモリー(※)をつかさどる前頭前野が酸欠・エネルギー不足状態になってしまい、問題解決能力が著しく低下してしまうのだそうです。これはビジネスパーソンとしては重大な問題ですね!ミスの原因を把握するつもりで部下につい厳しく問いただしてしまう…そんな行動には要注意です。部下は脅威を感じる状態では、本来できるはずの適切な答えはできません。

(※ワーキングメモリー:読み書きや計算など何か目的を持った作業をしている時に使われる記憶機能のことで、短期記憶・長期記憶とは異なります。創造性にも関係があると言われています。)

SCARFモデルを考えたDavid Rockらが強調しているのは、このモデルをあらかじめ知っていれば、適切なマネジメントに生かすことができ、組織変革のデザインをしやすくなるということ。「スカーフ」を味方に、周囲とのコミュニケーションをもっと効果的なものにしてみませんか?

参考:『SCARF® in 2012:updating the social neuroscience of collaborating with others』(2012, Dr.Davis Rock and Christine Cox, Ph.D

SCARF: a brain based model for collaborating with and influencing others 』(2008, David Rock

Neuroleadership Summit 2016 Keynote ”Feedback that works”


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山田有佳
京都大学総合人間学部、同大学院人間・環境学研究科修士課程修了。専攻は文化人類学、クロアチアで戦災からの街の復興をテーマにフィールドワークを行う。 株式会社ビジネスコンサルタント入社後、企画営業、営業マネジャーを11年。現在はサスティナブル経営を目指す企業やそこで働く人たちに向けた情報発信や能力開発プログラムの開発を担当。サスティナブルな選択をするビジネスパーソンが一人でも増えることを目指している。