30年後、50年後も持続可能な組織となるために、企業の業績判断の基準を変える必要がある。前回は「システム価値」というキーワードをご紹介し、それを生み出す組織になるための新たな業績評価ツール、「Future-Fitビジネスベンチマーク」が実用化されていることをご紹介しました(前回の記事は、こちらです)

自社のビジネスが環境や社会への負荷をゼロにし、さらにはプラスの影響を生み出して、サスティナビリティを実現するために何をすべきかを、多大な時間をかけて、一から情報収集し、検討する。ビジネスの第一線で厳しい競争をしているリーダーたちには簡単にできることではありません。むしろそのために小さな取り組みすら進まないと言ってもよいでしょう。「彼らの代わりに、細かいことは私たちが全部調べて」持続可能な経営を進めるためのベンチマークツールとしてFuture-Fitを作っていると、開発の中心メンバーであるマーティン・リッチさんはそう教えてくれました。

システムで成功するための必須条件

地球環境という一つの(そしてとっても大事な!)システムの中で、ビジネスを成功させるためには、「このシステムにおける成功の条件を理解しておく必要がある」ということも前回お伝えしました。「戦略的で持続可能な発展に必要なフレームワーク(FSSD)」は、この成功の条件も、「持続可能性4原則」として示してくれています。

【持続可能性4原則】

持続可能性4原則

  1. 自然の中で、地殻から掘り出された物質の濃度が、システム的に増加することに加担しない
  2. 自然の中で、人間社会が生産する物質の濃度が、システム的に増加することに加担しない
  3. 自然が物理的な方法で劣化することに加担しない
  4. 人びとが、基本的ニーズを満たそうとする行動を妨げる障壁が存在し続ける状況に加担しない(健康・影響力・能力・公平・意味意義)
    (関連動画はこちら

Future-Fitはこの4原則を踏まえ、

①地球環境への負荷をなくす「損益分岐点」
②地球環境に良い影響を及ぼす「ポジティブな影響」

この二つを達成するための指標がそれぞれ5分野23個ずつのセットで示されています。

目標が23項目と言うと多く感じるかもしれません。サスティナビリティの取り組みは、一組織内だけではなく、サプライチェーンとステークホルダーの全体を巻き込んで取り組まないと、結果が出せません。ですからFuture-Fitの目標は、「ビジネスへのインプット・事業活動・製品・働く人々・市民権」の5つの領域にわたって設定されているのです。バリューチェーン

①地球環境への負荷をなくすための、「損益分岐点目標」

通常損益分岐点とは、金銭的な観点でのコストと売上とが釣り合う点のことを指します。Future-Fitにおける損益分岐点は、企業活動による地球環境への負荷がゼロになるポイントを指します。

  • エネルギーが再生可能資源に由来している
  • 事業活動が温室効果ガスを排出していない
  • 自然資源は、生態系、人、動物のウェルフェア(幸せ・繁栄)を尊重するように管理されている
  • 働く人々の健康が守られている
  • 製品が人や環境を害していない
  • 製品のプロモーションは正直であり、倫理的であり、責任ある使用を推し進めている
    (他に17項目)

それぞれ目標達成率の計算式もあり、例えば「エネルギーが再生可能資源に由来している」では、

「再生可能資源から生成されたエネルギーの消費量÷全てのエネルギー消費量」

として計算が可能です。

さらに具体的なアクションガイドも整えられており、目標達成に取り組もうとした際につまずきそうなポイントがカバーされています。

  • なぜこの目標に取り組む必要があるのかアクションガイドのイメージ
  • 国連によるSDGsの17の目標のどの項目と、どう関連するか
  • どのような改善策に取り組むべきか(自社が消費するエネルギーの種類や使途を把握する方法、代替エネルギーへの移行を進める方法、等)
  • アセスメント方法
  • よくある質問とその回答(「再生可能エネルギーだけが責任ある調達と言えるのですか?」など)

②持続可能性で競争力を発揮する、ポジティブな影響

ポジティブな影響とは、損益分岐点を超えて、環境・社会に好影響をもたらすような取り組みを評価するための指標です。これも損益分岐点と同じく4分野23項目です。

  • 基本的なサービスへのアクセスを増やす:食料、水、衛生、クリーンエネルギー、住宅、教育、医療、ネットワーク
  • 利用可能な再生可能エネルギーの量を増やす
  • 責任ある管理を受けている天然資源の量を増やす
  • 他者が自然資源の使用を減らすことを可能にする
  • 大気から温室効果ガスを除去する
    (他に18項目)

これらを見ていると、イノベーションや新しい商品・サービスのヒントがたくさんありそうです。そしてものづくり企業に関することだけではなく、ITやサービスの領域に関わることも含まれています。

例えば、「基本的なサービスへのアクセスを増やす」には、日本の商社が取り組んだ次のような事例があります。

・発電設備の不十分な地域に太陽光発電所を作り、
・現金収入の少ない人々でも利用しやすい時間制の料金体系にし、
・利用者はスマホから時間を指定し、電気利用の申し込みができる

インタビューに答えていた青年は、「電気のおかげで夜も勉強ができるようになった。今までは暗くなったら何もできなかった。」と答えていました。彼は大学進学を目指して勉強中なのだそうです。(※)

サスティナビリティを競争優位の源泉と捉える取り組みを適切に評価するために、有意義な指標と言えそうです。

Future-Fitビジネスベンチマークを使っている企業とは

リッチさんは、この業績指標ツールを、どのような業種業界の企業でも使えるものとなるように開発しています。実際にこのツールを使っている企業は、

ザ・ボディショップ(英/化粧品製造販売)
デビアス(南ア/宝飾品)
ノボノルディスク(デンマーク/医薬品製造)
コベストロ(独/化学品・高機能素材メーカー)
グラント・トンソン(英/監査法人)

など、さまざまな業種・業界です。
日本には今これから私たちが紹介を始める段階なので、導入事例はわずかです。上述した企業の日本法人では、ザ・ボディショップ(株式会社イオンフォレスト)のように本社の方針に従ってFuture-Fitを積極的に実践している組織もあります。

Future-Fitを変革のテコとして使おう!

私たちは、リッチさんの話を踏まえて、特に次のようなビジネスや組織で、Future-Fitビジネスベンチマークが強力なツールになりそうだと感じました。

  • 今後規制が強化される恐れが高いビジネスや代替技術・サービスにより淘汰(とうた)される恐れがあるビジネス(温室効果ガスの排出量が多い製品を提供している、等)
  • 新規ビジネスの立ち上げを検討している組織(環境に良い影響をもたらす、持続可能性を高めることを競争優位としたい)
  • 経営の世代交代をしたい、そのために次の10年ではなく20年・30年後からのバックキャスティングでビジョンを考えたい組織
  • SDGsに対する自社の取り組みや成果の説明が求められる、各業界のリーダー的企業(Future-Fitの目標達成とSDGsにおける成果とを、ひもづけて評価する仕組みもあります)

サスティナブル経営の実現は一夜にしてならず

実は、Future-Fitビジネスベンチマークには、今の技術・社会の動向・自社のリソースでは実現の難しい目標もたくさん含まれます。しかし「だから今は何もしない」ではなく、「持続可能なビジネスへと変革するためのステップを積み上げていこう」という考えで取り組むのが大事だということです。リッチさんは、「この目標は短期的な達成をめざすものではありません。長期で達成するものと捉えて試行錯誤し、これにコミットメントしていることを明言することで、社内外のステークホルダーの信頼を得て、変革を起こしていくことができます」と説明してくれました。

現在は英語のみですが、WEBサイトには詳しい情報が満載です。
http://futurefitbusiness.org/

さらに詳しい情報を、という方は、ぜひ私たちにお気軽にお問い合わせください。

※参照:「太陽光発電に商機あり」NHK おはよう日本 おはBiz https://www.nhk.or.jp/ohayou/biz/20171208/index.html

グラフィック担当:遠藤麻衣子(株式会社ビジネスコンサルタント)


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サステナビリティとイノベーション 〜次世代への責任〜

山田有佳
京都大学総合人間学部、同大学院人間・環境学研究科修士課程修了。専攻は文化人類学、クロアチアで戦災からの街の復興をテーマにフィールドワークを行う。 株式会社ビジネスコンサルタント入社後、企画営業、営業マネジャーを11年。現在はサスティナブル経営を目指す企業やそこで働く人たちに向けた情報発信や能力開発プログラムの開発を担当。サスティナブルな選択をするビジネスパーソンが一人でも増えることを目指している。