サスティナブル経営のための変革を成功させる秘訣を学ぶためのシリーズ第2回をお届けします。前回は、「断絶の変化」はこれまでの変化と様子が違うようだというお話をしてきました。

1.断絶の変化とは何か 
2.持続可能な経営のための優先順位づけとは ←今回はこちら
3.変革の成功率向上に欠かせない3つのこと
4.ABCDで持続可能な未来への旅を始めよう!

マルモルス氏の「変化の本質を理解することで、変化への恐怖心をコントロールする」を心がけて、「断絶の変化」について理解を深めていきましょう。ポイントは3つ挙げられました。

~本シリーズは、株式会社ビジネスコンサルタントが2017年12月に開催したWINセミナー「バックキャスティング経営を実現するリーダーシップ」に基づきお届けします。執筆・解説は、本サイトでもたびたび登場いただいている、一般社団法人サステナビリティ・ダイアログ代表理事、牧原ゆりえさんです。~

①  これからは完全主義よりほどほど主義?

「断絶の変化」で求められるのは、持続可能な技術改良によって推進されるイノベーションではなく、破壊的イノベーションであること。

みなさんはウーバー(Uber)って聞いたことありますか。自家用車で乗客を有料で運ぶライドシェア(相乗り)を展開するアメリカの会社です。マルモルス氏は、ウーバーのビジネスモデル自体は、誰もがびっくりするようなイノベーションではなく、旅行業界では普通のことと紹介しています(※3)

オーラライトは、電球という製品の製造販売から顧客に照明サービスをワンストップで提供するというソリューション提供にシフトして成功を収めています。ここでも、リースするという考え方自体が新しかったわけではありません。電気製品業界では行われていなかったということです。機能を上げていくためのイノベーションではなく、むしろ機能はそのままか下げるぐらいで良いのです。
そして、その機能が存在していなかった業界やビジネス・ドメインに、製品やサービスではなくソリューションとして持ち込みます。既存のビジネスの利益を、そういった新たなニーズを顕在化させるようなイノベーションのために振り分けていくことが必要なのです。
これからは既存のビジネスを同じドメインでずっと磨き続けていく完全主義より、自分たちの知らないドメインの常識とかかけ合わせて新しい価値を提供する。あるいは自分の強みがまだ生かされていない市場に強みを基にしたソリューションを提供するという関わりが大切になるということです。

また、その業界になかったものを利用してソリューションを生み出し、顧客に提供するというプロセスは自分たちだけではではできません。電球の製造販売から、照明サービスの提供に移行するにあたって足りないスキルを補い、それまで付き合いのなかった業種とのお付き合いも必要になります。自らの強みを生かしながら、必要なコラボレーターを買収や業務提携、また社内での積極登用やリクルートを通して獲得していくことが大切です。慣れ親しんだサプライ・チェーン、バリュー・チェーンの外へ出て行くことは心理的にもビジネス的にも負担になります。ここは負担があってもその価値があるということを判断するための視点が必要になります。これについては3回目のブログで触れていきます。

②キャズムを超えるより重要!マーケットの反応はサメのひれ型になる

時間をかけて性能を改良し、より高い投資利益を得ようという戦略を実行する時間はないということ。

ロジャーズのイノベーター理論では、新しいイノベーティブな製品が世の中に出ようとするとき製品購入態度により消費者を5つに分類しました。そのうち最新のものを求める16%の人々(イノベーター、アーリー・アダプター)と完全なソリューションや利便性を求める84%との溝をいかに埋めるか。これまではそれがマーケティングの鍵と言われてきました。

マーケットの動きの変化

(グラフィック by 株式会社ビジネスコンサルタント遠藤麻衣子)

しかし、デジタルを基にした破壊的イノベーションを考える場合はサメのヒレ型になり、1つの製品やサービスが市場にいられる期間がこれまでよりずっと短くなりました。より高い投資利益率を求めて、今の製品やサービスを改良するためのイノベーションを追求する時間がなくなったということです。

むしろ現状の投資利益の一部を、次の破壊的イノベーションに振り分ける方が効果的だということです。また、こうして次々に破壊的イノベーションを生み出していくためには、設備投資がそれほどは必要がないビジネスモデルを目指す必要があるということでもあります。

③サステナビリティが変革の旗印!

サステナビリティは、会社の利益を奪う敵ではなく、さらなる利益をもたらしてくれる味方であるということ。

今脱炭素社会というあり方を企業に迫ることになった「パリ協定」。でも、これを乗り切ったらもうずっと安心!なんて保証はありません。オーラライト社は一度大きな変革を成し遂げたと思ってから、もう一度変革に取り組まないといけない状況に直面しましています。発光ダイオード(LED)についての目測を誤って変革を行い、その後やはりLEDに本腰を入れて取り組む必要が出てきてしまったのです。「もう一度変革を」と呼びかけるのは大変なことだったとマルモルス氏は振り返っています。

マルモルス氏はサステナビリティが未来を形づくる需要な要素になる、と考え、ビジネスの方向性を考える際によりどころにしました。遅かれ早かれ無駄になると分かりっている投資を行う人はいません。その投資が長期的に見て意味があるのか無駄になるのか。その判断の根拠に科学が有効だということです。
例えば、オーラライト社の製品である「蛍光灯」には水銀が使われていました。が、水銀に関する条約(水俣条約、2017年8月に発効)の有無に関わらず自然の持続可能性の原則をふまえれば問題だということは明確で、蛍光灯に依存しないビジネスへの変革を推し進めました。サステナビリティの科学が、彼にとって、「大変でも、この変革を共に乗り切ろう」と自信を持って説得する根拠となったのです。

いかがでしたか。

結局はやってくる大きなうねりに踊らされられるぐらいなら、持続可能なビジネスを目指して打って出たい!と思った方も多いのではないでしょうか。ところが、マルモルス氏は、大規模な変革戦略を立てて取り組んでも、成功して企業が生き残れるのは30%ぐらいだろうと言います。つまり変革を断行する企業の3つに1つしか成功しない。かと言って、現状維持のままで生き残れる確率は5%ぐらい、つまり20社に1社とさらに成功する確率がグッと下がります。

「だから変革に準備が必要です」とマルモルス氏。

次回は、「断絶の変化」を乗り越えるためのマルモルス氏からのメッセージをお届けします。どうぞお楽しみに。

次記事:3.変革の成功率向上に外せない3つのこと!

※3  The future of leadership is now 2016 – Martin Malmros interviewed by Annika Dopping

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