みなさんは、昨年末のNHKスペシャル『激変する世界ビジネス “脱炭素革命”の衝撃』(※1)をご覧になりましたか。

2015年、パリ協定では、温室効果ガスの排出量を実質ゼロにする脱炭素社会へ向けた長期目標が掲げられました。京都議定書は思うように効果を発揮しませんでしたが (※2)、今回は状況が大きく異なるようです。パリ協定で合意された温室効果ガスの排出量削減目標を達成するためには、現在確認されている化石燃料埋蔵量の2割しか使えないことが明らかにされました。そのため、このラインを越えて化石燃料関連資産を有する企業から世界の投資資金が撤退を始めました。その動きを受けて、エコ文明政策を掲げる中国ではサステナビリティビジネスに乗り出す組織が増えてきました。
日本に対して厳しくコメントする機関投資家や、世界のサプライ・チェーンから取り残される恐れを今まさに感じている日本のビジネスパーソン。彼らの姿を見て、この時代にビジネスをすることの大変さを感じました。どうしたらいいだろうかと思った方も多いのではないでしょうか。

まさにこの番組翌日、サスティナブル経営を推進する株式会社ビジネスコンサルタントは、その先進事例を築き上げた実業家をスウェーデンから招聘してセミナーを開催しました。マーティン・マルモルス氏はオーラライト社のCEOとして、スウェーデンの電球製造会社からヨーロッパを代表するライティング・ソリューション・カンパニーに変貌を遂げる変革を行ってきました。セミナーのテーマは、「断絶の変化を超える」。講演内容から、変化と「断絶の変化」の違い、その変化を超えていくために必要なことは何かについて数回にわたってポイントとなる点をご紹介していきます。ぜひご覧ください。

1.断絶の変化とは何か ←今回はこちら
2.持続可能な経営のための優先順位づけとは
3.変革の成功率向上に欠かせない3つのこと
4.ABCDで持続可能な未来への旅を始めよう!

~本シリーズは、株式会社ビジネスコンサルタントが2017年12月に開催したWINセミナー「バックキャスティング経営を実現するリーダーシップ」に基づきお届けします。執筆・解説は、本サイトでもたびたび登場いただいている、一般社団法人サステナビリティ・ダイアログ代表理事、牧原ゆりえさんです。~

一緒にしちゃいけない、これまでの変化と「断絶の変化」

市場は常に変化していると聞いて驚くビジネスパーソンはいないでしょう。企業は現時点での経営環境や事業戦略の中で変化に対処するスキルも経験もたくさん持っています。でも、変化の質が大きく変わっている今、チェンジマネジメントには慣れているよ、という方こそ気をつけなくてはなりません。

結論から言うと、効率的、効果的に市場のニーズに敏感に応えるよう組織を変えていくだけでは足りないのです。今ある市場全てに影響を与えるような大きな「断絶の=非連続の」変化を残り超えていく変革力が求められるのです。

断絶の変化ってどんなもの?

「断絶の変化」と聞くと、なんだかすごそうな感じがしますね。その質感は、人によって全然異なるものだと思いますが、変わる前のものがなくなってしまうか残っているかが1つの目安になると思います。

例として、私の家族の話をさせてください。父は以前電話帳広告の営業マンとして、母は理系書籍のタイプライターとして働いていました。コンピューター技術の発展により、これらの仕事は今ほとんどありません。父の会社は退職間際に合併されました。父は自分の仕事が近い将来なくなることを感じて、再就職をせず退職しました。母は、仕事が先細りを見越して事務のアルバイトに転職しましたが、そちらのビジネスもネット販売の波に勝てず事業を縮小する流れの中、退職を選択しています。車を手放したり、お金のかかる趣味を諦めたりするのは残念だったと思います。それでも、2人には、それなりに納得して仕事を離れることを選択する時間があったように見ました。

断絶の変化とは、ビジネスそのもの、そして、そこで働く人たちの雇用も消滅してしまうようなものです。

断絶の変化を引き起こす時代のうねり

しかもこれは変化のスピードが今ほどは早くなかった頃の話。今の時代にこの「自分なりに納得する時間」が多くの人に許されているのか疑問です。それは、あらゆる市場に膨大な影響を与える可能性がある、大きなうねりの時代にいるからです。その一例としてマルモルス氏は、社会の脱炭素化とAIを含むデジタル革命を例に挙げていました。

パリ協定の目標でもある「社会の脱炭素化」を例に考えてみましょう。みなさんの暮らしの中に、化石燃料を使わずに手に入れられる製品やサービスがどのぐらいありますか。化石燃料を使わずにどのぐらい移動できるでしょうか。読者の方の多くが答えに困ってしまうのではないでしょうか。それは無理もないこと。現時点で日本のエネルギーが化石燃料や、装置の設置や維持管理を化石燃料に依存する原子力エネルギーに大きく依存しているからです。これはほとんどの市場が影響を受けるということ。今ある製品やサービスが果たしている「私たちを幸せにしてくれる機能」が、将来は「脱炭素」という全く異なる制約条件の中で提供されることになります。当然、製品やサービスの形は大きく変わるでしょう。つまり、現状のビジネスに関わる雇用、つまりほとんどの方が今後影響を受ける可能性が高いということです。

国内企業だから心配ない?

グローバル企業であれば、「再生可能エネルギーでビジネスできない会社とは付き合いません」と世界のサプライ・チェーンからはじき出されてしまう現実がはっきり見てきました。でも、「うちは世界を相手に仕事はしていないから大丈夫」という企業にだって断絶の変化は押し寄せてきます。グローバル企業の業績が不安定になれば、雇用や給与もそのあおりを受けることになります。また約半分の職種が人工知能(AI)に置き換えられ、それ以外の職種のほとんどもAIにより効率化されるというもう1つの大きな変化と合わせると、従来型の労働から得られる賃金は減ることが予想されます。つまり、購買力の変化の影響を受け、国内企業の売上だって不安定になるのです。

いかがでしたか。

変化は変化でも「断絶の変化」は思ったより手ごわそう。そして影響を受ける人が多そうです。

でも大丈夫。マルモルス氏には断絶の変化を超えてきた知恵があります。「人は分かりらないことで恐怖心をいただき、さらに変化に抵抗する。だから、本質をしっかり理解できるよう伝える努力が大切」として、大変多忙なCEO時代にも会社役員、従業員を含む多くのステークホルダーと密にコミュニケーションをしてきました。

引き続き私たちも「断絶の変化」の本質と、それを乗り越えるためのプロセスを見ていきましょう。次回もお楽しみに。

次記事:2.持続可能な経営のための優先順位づけとは

※1 NHKスペシャル『激変する世界ビジネス “脱炭素革命”の衝撃』はNHKオンデマンドでご覧いただけます。https://www.nhk-ondemand.jp/goods/G2017083676SA000/

※2  国連気候変動に関する政府間パネル(IPCC)による総括
https://www.ipcc.ch/publications_and_data/ar4/wg3/en/ch13s13-3-1.html