5月に行われた ATD International Conference & Exposition で最もセッション数の多かったトピックは、「リーダーシップ開発」でした。

複数の発表者が引き合いに出したアメリカのリーダーシップ研究開発機関Center for Creative Leadership(以下CCL)が示した「未来のリーダーシップのあり方」は、従来のそれとは大きな違いがあるように思います。

まず、能力やコンピテンシーといった過去の成功者や偉人の行動パターンから学ぶリーダーシップ開発プログラムの限界を認め、人間の意識の発達ステージに注目が集まっていること。

そしてもう1つ、リーダーシップは個人のなかにあると考えるのではなく、人間のネットワークのなかに存在するプロセスであると打ち出したことです。

今回は、「従来型リーダーシップとの違いとは何か」「新しいリーダーシップ開発に必要なものとは何か?」ということに考えを巡らせてみました。

「従来型」と「新しい」リーダーシップ開発、その3つの違い

いわゆる「従来型リーダーシップ」とCCLが示した「新しいリーダーシップ」の開発には、以下のような3つの違いがあるように思います。

現在の焦点 未来の焦点
水平的発達 水平かつ垂直的な発達
リーダーシップ開発は経営陣やHRが担う 各人が自身のリーダーシップ開発を担う
リーダーシップは個人のなかに存在する 集合的リーダーシップはネットワークの中に分散している

 

水平的な発達と垂直的な発達とは?

従来のリーダーシップ開発とは、優績者の成功パターンや資質の裏側にある技能やスキル、行動を特定し、それらを獲得するアプローチが主流でした。リーダーに求められるスキルや行動は、トレーニングにより習得可能であると考えられてきました。いわば、水平的な発達の領域です。

一方、垂直的な発達とは、人が世界に対する認識や意味づけを発達させていく段階を意味します。別の表現では、マインドがより大きく成長する、意識のステージが上がるなどといい、これにはメタ認知が大いに関わっています。

メタには、「超越した」とか「高次の」という意味があります。そして、メタ認知とは、上から自分を見下ろすかのように、自らの感情や記憶、思考などの知覚を客観的に認識し、また、自分が今どのような世界にいるのかを俯瞰(ふかん)的見て取る活動をさします。

人間は、成長するにつれてメタ認知を広げていきます。それにより、自分と他人の視点を区別化し、自分の思考過程も意識化する、物事の優先順位をつけるなどといったことが可能になるのです。大人になってからもメタ認知の発達は続くため、人はいくつになっても「それぞれの発達過程にいる」と考えられます。

水平的な発達によって得られる能力をアプリケーション ソフトウエアだとすると、垂直的な発達は基本OS(オペレーション システム)をアップデートするようなものだといえるでしょう。

課題が定義でき、その解決のためのテクニックが明らかなときには、水平的な発達によって獲得される技術や前例は大いに役に立ちます。

しかし、利害関係の絡み合った環境のなか、より複雑な思考、より難解な課題定義と高度な解決力が必要とされる状況では、垂直的な発達レベルの高い人のほうがよく機能するのです。

今後は日本国内でも、この垂直的な発達水平方向の発達と合わせて議論されるようになるのではという思いを強く持ちました。

リーダーシップ開発のオーナーシップを「自分自身」が持つ

最近まで、リーダーシップ開発は経営やHR主導で推進されてきました。「いつ」「だれに」「何を」「どこで」「なぜ」「どのように」ということは、「会社」が決定します。ですから、リーダーシップ研修に「送る」、360度評価を受けて「もらう」、役割を理解「させる」という言葉を使います。

ところが、この言葉には、リーダー候補者に”ある前提”を植えつけてしまう可能性があることを否定できません。「自身のリーダーシップ開発は第3者に委ねられている」と。そして、選抜されなかった社員はこう思っているかもしれません。「会社の将来?会社を率いるリーダー?自分には関係ない」と。

「ひとは自らの成長プロセスを自分のものと感じるとき、つまり、オーナーシップを自分自身がにぎるときに成長へのモチベーションが最も高くなる」といっている社会心理学者もいます。

もちろん、「あらゆる研修やトレーニングのすべてを個人で計画し、実行せよ」といっているわけではありません。

リーダーシップ開発のオーナーシップを個人が持つために経営やHRが取り組むべきことは、「社員を選抜しプログラムに送り込む」のみではない、とCCLは提案しています。

「ヒーロー的リーダー」から「集合的リーダーシップ」へ

過去50年、リーダーシップ開発は個人のストーリーでした。偉大なリーダーが方向を示し、組織をインスパイアする-。その前提には、“リーダーとは、その資質をもった一個人が担う役割である”という考えがあります。「リーダーが足りないから増やす必要がある」という議論もこれにあたります。

CCLが提唱する新たな考え方は、“リーダーシップとは、人々のネットワークのなかに広がった集合的なプロセスである”というものです。これを集合的リーダーシップと呼んでいます。

そして、「集合的リーダーシップが開花しやすい土壌、その4つの仮説」を、以下のように立てています。

  • オープンな情報が流れていること
  • フレキシブルな階層であること
  • リソースや意思決定が分散されていること
  • 中央のコントロールは緩められていること

集合的リーダーシップが開花し、組織の全員がリーダーシップを担うとき、「リーダーは誰か」「リーダーが足りない」という話は議論の中心ではなくなります。そして企業は、「組織にとって必要なことが執り行われているか」という本質的な問いに集中できるのではないでしょうか。

集合的リーダーシップの企業事例は、アメリカのオンライン アパレルショッピング会社のザッポスが、2013年に全役職を廃止すると宣言した例が近いように思います。役職や指示命令がなく、タスクの下に仕事が回るということです。

これには賛否両論あり、また、大きな反響を呼んでいます。多くの社員が変革を自らのものとした一方、社員の14%にあたる210人が今年の5月までに会社を去ったとのレポートもあります。

この新しい組織のあり方が業績にどのような結果をもたらすのか、壮大な実験として注目が集まっています。

今後のリーダーシップ開発に必要な要素とは

このようにみてくると、今後のリーダーシップ開発に必要な観点は、次の3つにまとめられます。

  1. 水平的な発達だけでなく垂直方向の発達にもフォーカスする
  2. リーダーシップ開発のオーナーシップを当事者自身がしっかりと持つ
  3. ネットワークのなかにある「個のリーダーシップ」よりも、「集合的なリーダーシップ」が育つ環境を作る

CCLが唱えるこれらの流れは始まったばかりで、実践事例はまだまだ少ないのが現状です。そして、開発手法やプログラムが確立しているわけでもありません。

しかしながら、「今後のリーダーシップ開発」の1つの潮流として、意識しておきたいトレンドであると感じます。

参考文献
Future Trends in Leadership Development by Center for Creative Leadership

世界最大の人材育成会議 ATD2015より

  1. 問いを持つことが会話を生産的なものにします~ATDからの学び~
  2. 人材開発の潮流は?ATDの概観から探る
  3. ATDにみる未来の学習のかたちとは?
  4. 「新しいリーダーシップ開発」に必要な3要素~今年のATDからの考察~

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遠藤 麻衣子
西南学院大学にて文化人類学を学ぶ。外資系人材ビジネスに13年勤務した後、米国留学を経て2014年(株)ビジネスコンサルタントに加わり商品開発のための探索活動を行っている。就職と離職の場面を何百回と目にした経験を元に人が仕事を通じてイキイキとする支援や大人の学習意欲、またキャリア観を高める支援を探求中。英語力キープを兼ねて海外文献や学会情報へのアクセスを欠かさない日々を送っている。