先日、世界最大規模の人材育成の会議であるATD(Association for Talent Development)に参加してきました。
今年はフロリダのオーランドが開催地でした。ディズニーやユニバーサルスタジオ、ケネディ宇宙センターなど見どころの多い観光地です。
しかし、それに負けないぐらい、人材育成についての興味深いセッションが数多くありました。

特に、今年は未来の学習のかたちを考えさせられるセッションが多くあったように感じます。

未来の学習に教師は必要!?

ATDでは毎年、3名の有識者の基調講演が行われます。
その中の1人である、英国ニューキャッスル大学のスガタ・ミトラ博士の講演がとても刺激的でした。
その内容は、「クラウド上に学校を(The School in the Cloud)」というこれまでの教育の概念を覆す全く新しい子どもの教育方法についてでした。

まず紹介されたのが、スガタ博士が世間を驚かせたインドのニューデリーで行った実験です。

『学習に教師は必要か?』という試みです。

スラム街の子どもたちにインターネットにつながったパソコンを与えます。子どもたちに「この箱はなに?」と聞かれてもスガタ博士は「さあ、分からない」とだけ答えて立ち去ります。子どもたちはあれこれパソコンを操作し、8時間後にはインターネットのブラウザを操作することができました。

この実験を各地で繰り返し行ったあと、「子どもたちは独力で、数か月後には欧米の事務員と同じパソコン使用能力を獲得する」という結論に至りました。

次に紹介されたスガタ博士が行った実験も、興味深いものです。

南インドの村に住み、タミル語を話す裕福とはいえない家庭の12歳の子どもたちが、バイオテクノロジーを英語で学習できるかという実験です。数か月後この子たちは、裕福な家庭の子どもが持つのと同じ知識レベルに達しました。

このときの仕掛けはこうです。

子どもたちの遊び相手であった、しかしバイオの専門知識を持たない女性が、励ましを与えたのです。「すごいね」「それは何?」「もう一度やってみせて」と。

驚いたポイントが2つあります。
1つは、子どもの学習への取り組み方です。
インターネットにつながった自己学習の環境を整備すると、子どもは協力しあって学習に取り組んでいきます。
誰からも教えられることなく、自分たちで試行錯誤しながらパソコンの使い方を理解し、検索エンジンを使いこなすようになるのです。
つまり、学習の仕方を自分たちで探りながら発見し、学びを進めます。

もう1つは、大人の役割の違いです。
これまでの教育の概念では、教師である大人から画一的な教授方法で教わるという学習が一般的だったのではないでしょうか。
しかし、この取り組みでは、大人の役割は子どもの後ろに立って驚いてみせたり、励ましたりというグランマ(おばあちゃん、見守っている大人)的な役割でした。

自由な学習の場や環境が与えられると、子どもは自ら学習する力を拡大させていくことが分かったのです。

大人の学習にはどう役に立つか?

これが成功している秘訣は、3つあると私は感じました。

1. 子どもが好奇心を持つ学習環境がある

学習環境自体が楽しく、子どもを惹きつけるものであるということです。
壁に埋め込まれたパソコンやXbox、いつでもグランマ(おばあちゃん、見守っている大人)と話せるSkypeの環境が用意されていたりします。それ自体が子どもに好奇心を持たせ、楽しませます。

2. 1台のパソコンを複数人でシェアしている

1人1台のパソコンを与えるのではなく、1台を複数人が使う環境になっています。そのため、自然とグループでの共同学習になり、お互いの知恵を使いながら自発的に学ぶようになります。

3. 魅力的な「問い」がある

スガタ氏自身の役割でしたが、謎めいた、なんだか調べてみたい、分かりたいと思うような魅力的な「問い」を残して去っていることです。 学習の原動力になる「問い」がそこにはありました。

このポイントを大人の学習に応用してみることは、十分に可能ではないでしょうか?

真面目な座学ばかりではなく、ゲームやイラストレーションを人財育成に取り入れている企業も増えてきています。
また、ワークプレイスをフリーアドレス(個人では机を持たず、席を決めないスタイル)にし、誰が隣に座るか分からないように毎日くじ引きで席を決め、共同を促す仕組みを入れている企業もあります。
そして、ミッションやビジョンを明確にし、その意味合いを伝え、メンバーを惹きつけ、仕事への原動力となる魅力を作り出すことに注力している企業も多いようです。

皆さんの組織ではどのような工夫をしていますか?
今までの「学習」に対する規範や思い込みを破って、未来の学習のかたちを模索する時期に来ているのかもしれません。

今までとは違った、未来の学習のかたちはまだまだATDでも模索中のようです。
BConでも探索をしながら、みなさんに共有していきたいと思います。

【参考情報】
※スガタ・ミトラ博士はTEDの受賞経験があります。彼のビジョンにご興味ある方は以下から2013年のトークをご覧いただけます。
【TEDトーク】クラウド上に学校を

世界最大の人材育成会議 ATD2015より

  1. 問いを持つことが会話を生産的なものにします~ATDからの学び~
  2. 人材開発の潮流は?ATDの概観から探る
  3. ATDにみる未来の学習のかたちとは?
  4. 「新しいリーダーシップ開発」に必要な3要素~今年のATDからの考察~

いかがでしたでしょうか?思い込みを打破する、それは創造性にもつながります。 以下よりダウンロードいただける資料では、「クリエイティブタイプ」診断をご紹介しています。クリエイティビティの啓発にご興味のある方はぜひお試しください。

廣瀬 沙織
東京工業大学大学院 社会理工学研究科 修士課程修了/ 一般社団法人日本ポジティブ心理学協会 理事。 株式会社ビジネスコンサルタントにて営業マネジャー職を担当。その後、同社における顧客組織の組織開発と人材開発への投資効果と投資効率を最大限に高めるための会員制サービスの商品戦略を担当。現在は同社の研究開発マネジャーとして、サステナブル社会の実現のため、ポジティブ心理学やイノベーション理論、自然科学ベースの戦略策定フレームワークに基づく商品開発およびその実践を担当。