小岩井農場の名前の由来をご存知ですか?地名ではありません(現在も住所は雫石町)。設立に深くかかわった3人の人物の名前に由来しています。

野義眞  日本鉄道会社副社長、井上勝と岩崎彌之助とを引き合わせた
崎彌之助 岩崎彌太郎の実弟、三菱社の第2代社長として事業を多角化
上勝   鉄道庁長官、英国に密航・留学した長州ファイブの一人

「環境保全・持続型・循環型」の農場運営に取り組む小岩井農場は、サステナビリティを心と体で学べる魅力が満載です。今回は私たちの視察の後半をご紹介します。前編はこちらから

小岩井農場での学び、午後からのガイドは、野澤裕美さんです。野澤さんは小岩井農場資料館館長で、4代にわたって小岩井農場にお勤めになられ、ご自身は農場内の小学校を卒業された小岩井農場育ちとのこと。

農場で毎日作られる“資源”を活用、バイオマス発電

農場で毎日必ず“生産”されるもの、それは牛乳だけではありません。動物たちの排泄物も日々大量に出されます。小岩井では牛だけで約2200頭、鶏は10万羽、その他にも羊などを飼育しています。牛の排泄物は、そのままではアンモニア成分が強いため、土壌をいためる可能性があります。かつては野積みで良質なたい肥を作っていました。しかし平成16年の法規制の変更で、たい肥置き場をコンクリート化する必要に迫られます。

そういう時に、ただ規制に従うだけではないのが小岩井農場の流儀!行政によるバイオマス発電事業への後押し、三菱グループで小岩井農場とゆかりのある三菱重工業株式会社の協力を得て、新規事業として会社を設立し、バイオマス発電に乗り出したのです。

現在では、この施設は農場の循環型経営に欠かせない施設です。動物たちの糞尿を集め、さらに外部から持ち込まれる食品ざんさを加えて、発酵させます。発生したガスは発電に使われ、残りは液肥、たい肥として土壌に戻されます。豊かな土壌で牧草・トウモロコシ・小麦などの生産が行われ、それらが牛の飼料になり、また排泄物になると、この発電所に送られてきます。

なお、ここで発電された電気は、農場内で使うよりもより経済的であるという理由から電力会社へ売電され、利益をもたらします。同様に、食品ざんさの受け入れでも、取引先から処理費用を受け取っています。物質循環を成立させながら、経済的メリットも生み出す仕組みができています。

さらに驚かされたのは、食品ざんさの質へのこだわり。給食の調理前の野菜くずや、賞味期限切れのジュースなど、植物性のものしか入れません。というのも、例えば人の食べ残しの場合、動物性のもの、添加物、様々なものが混ざっています。それらが混入するたい肥や液肥をまいてしまうと、土壌に蓄積され、牧草に吸収され、牛にとっては健康に悪影響を及ぼす可能性があります。そのため、“厳選した”食品ざんさしか受け入れていません。

今も現役、重要文化財の牛舎

小岩井農場では現在でも、明治・大正・昭和初期に建設された施設が多く使用されています。21棟が重要文化財に指定されています。寺社仏閣以外で、「本来の目的で使われている重要文化財」というのはとても珍しいそうです。

そのひとつ、一号牛舎は建設が昭和9年(1934年)。ここで暮らすのは農場内でもトップクラスに優秀な乳牛たちです。古いものを大事に使っている、とも言えますが、使えるものは改良し使うのはサステナビリティの基本。建物自体は歴史ある牛舎ですが、中にあるのは現代的な搾乳設備です。

この建物は、岩崎久彌氏の「30年後にも恥ずかしくないものを」という指示のもと建設された、当時最新式のものなそうです。30年どころか、85年経っても使われています。今と当時とでは変化のスピードが違うとはいえ、「30年先にも通用するように」を具現化した、当時の農場で働く人々の仕事ぶりに驚かされます。

1号牛舎、趣ある外観です
農場内でトップクラスに優秀な乳牛たち
柵には、小岩井農場の森の間伐材を使用

IoTの活用で、牛にとっての快適さ向上と人にとっての労力削減を実現

築80年超の牛舎が現役で使われる一方で、農場では海外から学んだ酪農法や、最新設備も取り入れられています。それが鶴ヶ台牛舎です。

牛舎には、暑さへの対策として壁がありません。屋根しかついていないのでは、冬場、牛たちが寒いのでは?と思ってしまいますが、ホルスタイン種の牛は本来寒冷地の生き物であるため、寒さは平気。むしろ、好きに動き、好きな時に食べられるこの開放的な空間が、ストレス軽減に効果的なのだそうです。昨今、欧米では相当進んでいるアニマル・ウェルフェアという、家畜であっても生育法や環境に配慮する取り組みにも合致しています。牛が自由に動き回ると、人の管理は大変になりそうですが、IoTの導入で、人の労力軽減が進められています。牛たちは足にICチップを付けていて、歩数などを計測しています。運動量から、健康状態や発情のタイミングを知ることができます。時間が来ると牛たちは自ら隣接する搾乳施設に入っていきます。搾乳の際には、乳温も測定し、乳房炎などの病気になっていないかが把握可能です。600頭の牛の搾乳を、たった5人で1回あたり3時間ほどで済ませてしまうそうです

牛舎を自由に動き回る牛たち

ガイドツアーの後は、しばしの自由時間を各々楽しみ、この日の宿へ。小岩井農場の近辺は数多くの温泉があります。

小岩井農場だからこそ得られた、気づき、学び

丸1日のツアーでの、小岩井農場での気づきや学びを共有するため、夕方に対話の時間を持ちました。
視察は、情報量がとても多いもの。感じたことを忘れない、学びにするためにも、視察途中で振り返る時間を設けることが重要です。

私たちの気づき、学びの一端をご紹介します。

ガイドをしてくださる方々が、小岩井農場で働くことに誇りをもち、また農場に愛着を持っている。そのことを直接おっしゃられるわけではないが、話しぶりからにじみ出るものとして強く感じた。

・設立者らが、当時は皆が無理だ!と思うようなビジョンを掲げて、それが100年以上たっても受け継がれ、農場を導いている。サステナビリティは、永続する組織を作るエネルギー源になるもの。

・自然というと人の手が入らないものと思っていたが、それだけではない。人と自然が共生し、より豊かな環境が作られている。

・約130年かけ創られた森林を歩き、匂いを感じ、牛やバイオマス発電の施設を見学し、そこで働く人々の心に触れた。五感で感じ、圧倒された。サステナビリティで大事とされている、全体性や循環とは何かを、体感することができた

古くても良いものは大切に残して活用しつつ、その時代ごと最先端技術の取り入れにも熱心に取り組んでいる。現在ではIoTで牛のアニマル・ウェルウェアを高め、バイオマス発電では排出物とエネルギーの問題解決をしている。それらが品質を高め、ブランド価値の維持・向上にもつながっている。

まとめ:視察成功のポイント

今回訪問したメンバーは、サステナビリティについて、それぞれなりの意味付けをし、仕事の中での実践を模索するきっかけづくりができました。大前提として、小岩井農場という場の魅力、サステナビリティに関する実践の歴史と規模の大きさがありますが、

①大人だけではなく子供たちと一緒に参加することで、いつもと違う視点にたくさん気づけたこと、

②小岩井農場の皆さんに詳しいガイドをしていただけたことで深い学びができたこと、

この2つが学びを深める成功要因になったと思います。

今回ご紹介したスポットは、農場内の普通には入れないエリアにありますが、見学ツアーも数多く企画されています。内容や日時は、ホームページで確認できます!

次回は視察ツアー2日目、認定特定NPO環境パートナーシップ岩手での学び・気づきをご報告します。


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